2020 Fiscal Year Research-status Report
腸内環境を介した非アルコール性脂肪肝炎の発症リスクの低減に関する研究
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19K11719
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
片岡 佳子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (40189303)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
櫻井 明子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 助教 (70707900)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 非アルコール性脂肪肝炎 / 食餌誘導性マウスモデル / 腸内環境 / 幼若期 / 抗菌薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
特殊飼料としてウェスタンダイエット(RD12079B)またはコレステロール‐コール酸添加高脂肪食(RD12336)を8週齢以降に自由摂取させることにより脂肪肝から非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を発症するマウスモデルを用いて、腸内環境の形成過程である出生直後から離乳完了する3週齢までの幼若期に抗菌薬暴露による介入を行い、腸内環境の変化と脂肪肝・脂肪肝炎の発症とその症状の程度の関連性を検討した。 抗菌薬バンコマイシン(グラム陽性菌対象)、ポリミキシン(グラム陰性菌)、アンピシリン(全菌種対象)の水溶液を幼若期に飲料水として投与して菌叢形成を撹乱し、8週齢から28週齢まで特殊飼料を与えた。幼若期に抗菌薬暴露しなかったマウスにウェスタンダイエットRD12079Bを投与した陽性対照群は、肝臓に脂肪滴が蓄積して肝障害マーカーが上昇し肝障害を起こし病理組織標本上でもNASHの誘導を確認できた。そこで、幼若期の抗菌薬による介入群との群間の比較を行ったが、血清中肝傷害マーカーであるALT値、TBA値や病理組織標本上でのNASHスコアについて、どちらの特殊飼料の場合にも抗菌薬暴露による有意な影響は認められなかった。RD12336Nを与えた陽性対照群でも体重増加はほとんどなしで肝臓に脂肪滴が蓄積して肝障害を起こしていた。幼若期に抗菌薬暴露した群と比較すると血清中の肝傷害マーカー値の一部に有意差はあったが、病理組織標本上での炎症関連スコアを含めて考えると、こちらのモデルでも抗菌薬暴露による群間の顕著な影響はみられなかった。 しかしながら、抗菌薬暴露群には実験途中で体重が著しく減少し安楽死させた個体がおり、その血清中肝障害マーカーは著しく上昇し、肝臓重量も減少していた。幼若時の抗菌薬暴露による影響の可能性が考えられるので、今後これらの重症化の有無と腸内環境の変化を分析し関連を検討する必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
よりマウスに適した食餌誘導性のNASHモデルを選択し直して、腸内環境への抗菌薬暴露による介入の影響を検討している。実績概要に示したように、順調に、陽性対照群はNASHを発症し、マウスの体重増加量や脂肪肝炎による血清中バイオマーカー値の上昇や病理組織学的評価による群間の比較を行うことができた。抗菌薬暴露の終了時(4週齢)、特殊飼料開始前(8週齢)および特殊飼料投与終了後(28週齢)に腸内環境の解析のための便および盲腸内容物を採取している。幼若期に抗菌薬暴露を行うために、母仔1組ずつ同一ケージで抗菌薬投与を行ったが、出生仔が少ない場合もあったため、群間比較に必要な個体数をそろえるのに時間を要した。これから、当初の計画に従って腸内環境・腸内菌叢の評価を進めていく。 当初は、腸内環境への介入により強く影響を受けた実験群に注目する予定であったが、実績概要に示した通り、抗菌薬暴露群の中に著しくNASHが進行したと考えられる個体が見つかったので、この個体ごとの重症化の有無と特殊飼料開始後の腸内環境の変化に注目して分析し、NASHの発症や進展と腸内環境の変動との関連性の検討を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の実績概要の結果では、陰性対照群(抗菌薬暴露なし、通常食)の雄マウス数が少なかったため、マウス数を追加して評価の確認が必要である。当初の計画に入れていた食物繊維や Bifidobacterium による介入実験の代わりに、今後は腸内菌叢形成過程(特に幼若期の)で抗菌薬暴露した影響について、重症化した個体と重症化しない個体との相違点に注目して、腸内菌叢の安定性やその代謝産物、腸内環境とNASHの発症リスクとの関連性を明らかにし、発症を抑制するためには腸内環境の何を標的にすべきなのかについて考察する。 抗菌薬暴露の終了時(4週齢)、特殊飼料開始前(8週齢)および特殊飼料投与終了後(28週齢)に採取したマウス便および盲腸内容物について、菌叢解析、腸内菌叢中の特定菌種の定量および腸内菌由来の代謝産物の分析を行う。抗菌薬暴露による腸内菌叢形成過程への介入により強く影響を受けた個体に特に注目して、2020年度から研究分担者となった櫻井明子助教が脂肪肝炎の病理組織学的評価と肝臓組織中での遺伝子発現の比較解析を推進する。 腸内微生物叢やそれに由来する代謝産物が脂肪肝・脂肪肝炎、さらに進行した肝硬変やがん化に関連することは既に報告されているが詳細な機序については未解明な部分が多い。幼若期の抗菌薬暴露による菌叢形成過程への介入が成長後の腸内環境の安定性に影響して、高脂肪食等による腸内環境の悪化を通して、著しい重症化を引き起こすのかもしれない。ヒトの脂肪肝疾患でも重症化には個人差があり、そこに腸内環境の安定性がかかわっている可能性があるので、実績概要に示した通り、抗菌薬暴露群により著しくNASHが重症化した個体に注目して分析し、NASHの発症や進展と腸内環境の変動との関連性の検討を進める。
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Causes of Carryover |
幼若期に抗菌薬暴露を行うために、母仔1組ずつ同一ケージで抗菌薬投与を行ったが、出生仔が少ない場合もあったため、群間比較に必要な個体数をそろえるのに時間を要した。そのために次年度使用額が生じた。 これから、当初の計画に従って腸内環境・腸内菌叢の評価を進めていく。実績概要に示した通り、抗菌薬暴露群の中に著しくNASHが進行したと考えられる個体が見つかったので、この個体ごとの重症化の有無と特殊飼料開始後の腸内環境の変化に注目して、菌叢構成や腸内菌由来代謝産物の分析を進める予定である。外部委託分析も活用して、研究成果を計画年度内にまとめられるようにする。
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Research Products
(3 results)