2019 Fiscal Year Research-status Report
一酸化窒素の生成と分解に寄与する機能遺伝子に着目した亜酸化窒素生成機構の解明
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19K12385
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
齋藤 利晃 日本大学, 理工学部, 教授 (50277381)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 亜酸化窒素 / アンモニア酸化細菌 / mRNA / amoA / hao / nirK / norB |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は,集積培養したアンモニア酸化細菌に対し,定常運転時の亜酸化窒素生成と各酵素活性および各機能遺伝子発現量との関係を明らかにすることを目的とした。 アンモニア酸化細菌の培養は,有効容積4Lの回分式反応槽にアンモニアを主成分とする無機栄養塩基質を流入させて行なった。回分サイクルは,曝気120分と沈殿・排水60分の計180分であり,水理学的滞留時間15時間,汚泥滞留時間40日,水温20±2℃,pH7.05±0.05とした。本条件では亜硝酸酸化細菌もある程度存在するが,基本的にアンモニア酸化細菌が優占している。 運転の定常期に亜酸化窒素の生成挙動を調べたところ,1サイクル内で大きな変化があった。具体的には,溶存態を含めて亜酸化窒素生成量の正確な収支を調べたところ,曝気開始から20分程度でほぼ最高速度に達した後,40分程度まで高い速度が維持され,その後漸減するという変化があることを正確に把握できた。なお,その間,環境条件やアンモニア酸化速度などに大きな違いがなかったことから,安定して見える系においても,細菌内部で異なる代謝が行われていることが示唆された。 そこで,機能遺伝子の測定結果を照らし合わせたところ,4つの機能遺伝子に関する発現量がサイクル内で変動しており,亜酸化窒素生成との関係が示唆された。すなわち,最も変化が大きかったnirKとnorBは,同時に増加し同時に減少していたことから共役的に転写されていること,更に亜酸化窒素の生成が最も大きい時期に同時に減少していたことが分かった。また,amoA の増減はnirKやnorBと正反対の挙動を示し,haoはサイクル時間内の変化はほぼ見られなかった。 今後は,nirKおよびnorBの発現量変化に及ぼす影響因子の解明とamoA発現量がirKおよびnorBと正反対の挙動を示した理由に注目して研究を進める必要があると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は,基礎的な検討として,各機能遺伝子のmRNA転写量と酵素活性との関係を明らかにすることを目的として実施した。後者の酵素活性については,各酵素に依存して進行する反応の速度を指標として検討を行なった。 まず,基本となるアンモニア酸化細菌の培養槽の安定運転,安定運転時の亜酸化窒素生成挙動の把握および各酵素活性の指標である反応速度の測定については,全く問題なく実施することができた。特に重要なアンモニア酸化速度および亜酸化窒素生成速度については全く問題なく測定することができ,それぞれamoAおよびnorBの活性として代替可能な情報を得ることができた。なお,これら二つの活性と機能遺伝子との関係が最重要であるが,できればnirKの活性についても情報が得られるのが望ましい。そのためには,アンモニア酸化細菌が関与しない化学反応の影響を排除して一酸化窒素の収支を押さえる必要がある。これについては極めて困難であると言わざるを得ないが,2年目は濃度測定から正確に行うことで可能性を追求したいと考えている。 最も重要な各機能遺伝子発現量の測定については,RNAの抽出・精製,cDNAの作成,更にPCRを用いた発現量の測定まで問題なく実施でき,活性との関係を考察する下地を整えることができた。その結果,安定期における発現量のサイクル変化を追うことができ,各酵素活性および亜酸化窒素生成との関係を考察するデータが得られた。但し,安定した運転条件におけるデータは限られており,相関関係を定量的に扱うにはデータがまだまだ不足しているため,引き続きデータ取得を続ける必要がある。 以上のように,幾つか課題はあるものの,初年度当初計画に対して概ね達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究計画を概ね達成できているので,2年目は当初計画通りに進行させることを考えている。特に付け加えるとすると,一酸化窒素の測定に加えて,その収支を押さえることで,nirKとnorBの活性の相違を明確にし,機能遺伝子転写発現量との関係を探ることを計画の中に入れておきたい。但し,これは些かチャレンジングな目標である。以下は,当初計画に沿った推進方策を記述する。 2年目は,一酸化窒素濃度と亜酸化窒素生成の関係を関連する機能遺伝子発現量から説明できるとする仮説を検証することが目的である。そのため,まずは一酸化窒素の計測を溶存態とガス体の両方において正確に行うことに注力する。正確な測定ができることを確認したのち,通常の運転における一酸化窒素と亜酸化窒素の挙動を押さえた上で,一酸化窒素の通気により濃度を変化させて,亜酸化窒素生成の変化を調べるとともに,呼応する各機能遺伝子発現量との関係を明らかにしたいと考えている。なお,仮説が正しいとは限らないが,その場合においても,機能遺伝子転写量と一酸化窒素濃度の測定により,通気による亜酸化窒素生成の増加および減少の理由について,生理学的応答に基づいた新たな仮説を検討し,3年目の検証に向けた準備を確実に進めたいと考えている。 また,上記を進める中で,初年度成果において得られた二つの課題であるnirKおよびnorBの発現量変化に及ぼす影響因子の解明,およびamoA発現量がnirKおよびnorBと正反対の挙動を示した理由についても留意しながら研究を進めていきたいと考えている。
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