2020 Fiscal Year Research-status Report
母親の国際労働移動を経験した子ども世代の仕事観と家族観、世代間ケアに関する研究
Project/Area Number |
19K12618
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
松前 もゆる 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90549619)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国際労働移動 / ジェンダー / ブルガリア / EU / 仕事観 / 家族観 / 世代間関係 / ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は本来、本研究の主要な対象である、母親の国際労働移動を経験し現在20~30代となった世代への聞きとり調査を進める予定であった。しかし、新型コロナウイルス感染症流行の影響で国外への渡航および現地調査は断念せざるを得なかった。 そのため本年度は、まず、研究代表者がこれまでに実施した母親世代への労働移動や仕事観、家族観に関する聞きとり調査を、昨夏の調査で話を聞くことができた子ども世代の実践と比較しながら捉え直すことに注力した。その結果の一部は、7月にオンラインで実施された16th EASA Biennial Conference(報告タイトル“Strategies of migrants from different generations: Demanding their rights, EU citizenship and identities.”)、また10月には、やはりオンラインで開催された第12回基礎法総合シンポジウム「人・移動・帰属――変容するアイデンティティ」(報告タイトル「移動・ジェンダー・世代―現代ヨーロッパにおける労働移動の事例から」)で報告し、ディスカッサントや参加者から貴重なコメントと助言を得ることができた。 また、これまでに聞きとりをし連絡をとりあっていた人たちに依頼し、オンライン調査(オンライン・インタビューおよびチャットの利用)を試みた。新型コロナウイルス感染症の現状が国境をこえて働く人々、とりわけ移住家事労働者に与える影響について話を聞くことができ、人々が移動に関し新たな選択をするケースがあることもみえてきた。このことについては、現状報告として「移住家事労働者にとっての「ホーム」―移動と「ホーム」をめぐる諸力に関するノート―」(『早稲田大学文学学術院文化人類学年報』15: 1-9)にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
予定していたブルガリアおよびイタリアでの現地調査が実施できないなか、研究代表者がこれまで聞きとりを続けてきたブルガリア出身で他のEU諸国で働く女性たちの経験について、昨年度の調査で聞きとりをしたその子ども世代の仕事や移動、家族をめぐる実践と比較しつつ捉え直す作業を進めることができた。これにより、社会主義を経験した世代と体制転換後に育った世代とを比較し、本研究の問いのひとつである、人が「労働者であること」を基本として成り立っていた社会主義体制からの転換が、人々が「働くこと」およびそれを土台とした生活の何を変えて何を変えなかったのかについて検討することが可能となった。しかし、新型コロナウイルス感染症流行の影響により予定されていた現地調査を実施できず、とくに体制転換後に育ち、母親たちの国際労働移動を経験した子ども世代への聞きとりに遅れが出ている。 なお、今年度のオンライン調査を通じ、パンデミックによって人々の仕事や移動に関わる実践にさまざまな影響が生じている事実も明らかになったことから、今後人々が仕事やケア、移動をめぐっていかなる選択をするかも注目されるところである。継続的な聞きとり調査の可能性を探りながら研究を遂行したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度にはイタリアおよびブルガリアでの現地調査を中止せざるを得ず、2021年度も国外での調査実施の目処は立っていないが、実際に「誰が」「どこで」「どのような」活動(仕事やケア)を、生活の中で「どう」組み合わせながら実践しているのかを捉えるためには、人々が生活する場に身を置きながらの調査が不可欠であり、早期にイタリアおよびブルガリアでの調査を実施したいと考えている。ただし、現地調査については新型コロナウイルス感染症の影響による渡航制限等が解除されることが前提であり、渡航が困難な状況にあっては、オンライン・ツールを用いた調査の可能性も探りたい。 また、ひきつづき関連文献や資料収集に力を入れて文献調査を進め、現地調査が可能になった暁には万全の態勢でのぞめるよう準備を整えておく。そして、こうした調査から得られた成果をオンライン研究会で報告し、また論考を発表すること等を通じて関心を共有する研究者と意見交換をし、コメントや助言を得ることでさらに研究を深めたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2019年度は2020年3月に予定していたイタリアでの調査を中止し、さらに2020年度には2度、2020年8月と2021年3月にそれぞれブルガリアとイタリアで現地調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症流行の影響で中止せざるを得なかった。そのため、旅費等の支出がなくなり、次年度使用額が生じた。2021年度にあらためて現地調査を実施したいと考えているが、新型コロナウイルス感染症の状況が落ち着き、各種渡航制限が解除されることが前提となる。
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Research Products
(3 results)