2022 Fiscal Year Research-status Report
母親の国際労働移動を経験した子ども世代の仕事観と家族観、世代間ケアに関する研究
Project/Area Number |
19K12618
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
松前 もゆる 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90549619)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 国際労働移動 / ジェンダー / 仕事観 / 家族観 / ブルガリア / EU / ケア / 世代間関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はブルガリアとイタリアで現地調査を実施し、本研究の主要な対象である、2000年代に母親の国際労働移動を経験し現在20~30代となった世代への聞きとりを進める予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いたとは言い難く、国外への渡航および現地調査は断念せざるを得なかった。こうした状況下、研究代表者がこれまでに実施した母親世代への労働移動や仕事観、家族観に関する聞きとり調査を再検討するとともに、以前に聞きとりをした母親世代とその子ども世代に依頼し、可能な範囲でオンラインでの調査(オンライン・インタビューおよびチャットの利用)を継続した。また、ブルガリア出身者の労働移動に関し、その動向と移動をめぐる言説について各種報告やインターネット記事から探ることを試みた。その結果、様々な理由によって出稼ぎ先からブルガリアへの帰国を選択する人たちがいること、また、ブルガリア社会においては人口減少が顕著となり、とりわけ若年層の人口流出が「問題」として、時にナショナリスティックな観点から語られる傾向にあることが明らかとなった。なお、人々がブルガリアへの帰国を選択する背景にはパンデミックの影響も指摘されるが、研究代表者の聞きとり調査からは、仕事としてのケアと家族のケアを両立させようとする試みという側面や、昨年来のウクライナ侵攻によるヨーロッパ各国の物価高騰の影響等も見えてくる。 以上の調査結果の一部については、拙稿「「人・移動・帰属」をフィールドから問い直す――現代ヨーロッパにおける労働移動とジェンダー・世代」(広渡清吾、大西楠テア 編『移動と帰属の法理論――変容するアイデンティティ』岩波書店、2022年、pp.52-73)にまとめた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
期間中に複数回予定していたブルガリアおよびイタリアでの調査が実施できないなか、研究代表者がこれまで聞きとりを続けてきたブルガリア出身で他のEU諸国で働く女性たちの経験を再検討し、オンライン・インタビューから明らかになったその子ども世代の仕事や移動、家族をめぐる実践と比較しつつ捉え直す作業を継続した。しかし、2020年以降現地調査を行うことができていないため、とくに体制転換後に育ち、母親たちの国際労働移動を経験した子ども世代への聞きとり、また生活の中で人々の「仕事」やケアを捉えようとするフィールドワークの実施に遅れが出ている。 なお、これまでのオンライン調査を通じ、近年、様々な理由により出稼ぎ先の諸外国から一部ブルガリアへ帰国する人たちがいることが明らかとなった。ブルガリア社会においては人口減少が顕著となり、とりわけ若年層の人口流出が「問題」としてナショナリスティックな観点から語られる傾向も見られるが、ブルガリア出身者たち、とくに若い世代が仕事やケア、移動をめぐっていかなる選択をするか、フィールドワークにもとづき丁寧に明らかにしていく必要がある。さらに、一定期間(多くの場合十数年)の国外居住を経て帰国した場合、出身社会における自らの居場所をどのように再構築していくのか(あるいは、その必要はないのか)も注目される。次年度はこうした問いに焦点をあてた現地調査を実施したいと考え、準備を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2020年以降、予定していたブルガリアおよびイタリアでの現地調査を中止せざるを得ず、研究計画に遅れが生じているが、実際に「誰が」「どこで」「どのような」活動(仕事やケア)を、生活の中で「どう」組み合わせながら実践しているのかを捉えるためには、人々が生活する場に身を置きながらの調査が不可欠であり、新型コロナウイルスの感染状況と各国の施策を見極めつつ、早期にブルガリアおよびイタリアでの調査を実施したいと考えている。同時に、今後も必要に応じてオンライン調査を行い、また、関連文献や資料の収集を継続して文献調査を進め、最新の動向や議論の枠組みを精査することで、現地調査が可能になった暁には万全の態勢でのぞめるよう準備を整えておく。 なお、これらの調査を実施した後は、得られた成果を早急に整理・分析し、学会や研究会等で報告する、また論考を学術誌等で発表することを通じて関心を共有する研究者と意見交換をし、コメントや助言を得ることでさらに考察を深めたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、助成期間中に複数回予定していたブルガリアおよびイタリアへの渡航および現地調査を中止せざるを得ない状況が続いた。また、国内外の学会も基本的にオンライン開催もしくはハイフレックス開催となり、結果として旅費等の支出が生じなかったため、次年度使用額が生じた。2023年度には現地調査を実施し、計画にそって研究を遂行したいと考えている。
|
Research Products
(1 results)