2023 Fiscal Year Annual Research Report
アングロアメリカ太平洋地域における日本人売買春の社会史ー公文書の分析を中心に
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19K12622
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
大原関 一浩 西南学院大学, 国際文化学部, 准教授 (00749880)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 性管理 / 移住 / ジェンダー / オーストラリア / 北米 / アラスカ / ハワイ / 太平洋地域 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度の2023年度は、2022年度に米国アラスカ州で収集した地方裁判所の記録、移民局記録、現地の新聞記事、東京の外交史料館で収集した記録などを分析し、調査結果を論文として所属大学の紀要論文にまとめた(『国際文化論集』第38巻1号)。 今回、20世紀転換期のアラスカにおける日本人売買春を、同時代の合衆国における日本人売買春と比較検討することにより、いくつかの知見を得ることができた。具体的には、1)アラスカの日本人売買春は、合衆国西部と類似した社会経済的文脈で売春を許容する制管理システムが発達したが、アラスカの「辺境性」ゆえに、現地の合衆国市民や地方政府から日本人女性が差別の対象にはなりにくかったこと、2)合衆国西部と異なり、アラスカには日本人が集住するコミュニティが発達しなかったので、日本人女性たちは「醜業婦」として同国人からの厳しい批判やまなざしにさらされることがなく、ある程度の経済的・社会的自立性を獲得し「自由」に生活することができたこと、などである。 視点を広げれば、同時期の東南アジアで売買春に従事していた日本人女性は、アラスカの日本人女性たちと同じく、日本人移住者のコミュニティから離れた「辺境」地域で働く人も相当数いた。「正業」に従事した日本人移民と「醜業」に従事した日本人女性たちの関係、アラスカの日本人女性と東南アジアの日本人女性の経験における類似点と相違点などを検討することよって、海外日本人売買春の理解がさらに深まるだろう。 今年度でハワイ・オーストラリア・アラスカ・北米にわたるアングロ・アメリカ太平洋地域における日本人売買春の考察はひとまず終了とする。今後は東南アジア・極東ロシア・東アジアにおける事例との比較を通じて、各地における日本人売買春の特徴を可視化し、従軍慰安婦問題など現代に通じるテーマについても新たな視点から問題提起を行っていきたい。
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