2020 Fiscal Year Research-status Report
情報サービス利用者の行動や思考を支援する機能の今後のあり方 ~電子カルテを例に~
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19K12699
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
津久間 秀彦 広島大学, 病院(医), 専門研究員 (10222134)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 武志 広島大学, 病院(歯), 助教 (40325197)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 診療支援 / 人間行動 / 医療安全 / 病院情報システム / 電子カルテ / 看護情報システム / 読影レポート |
Outline of Annual Research Achievements |
高度な医療を支える各病院の電子カルテには医療の質や安全の向上を支援する様々な機能が導入されている。しかし「高度な支援機能も利用者が正しく使わなければ無意味」との視点に立ち、利用者行動指向で今後の支援機能のあり方を検討するのが目的で、本年度の研究成果は以下の通りである。 (1)支援機能に関する過去のトレンドや現状の把握方法の検討:医療情報システムの先行研究の成果発表は1000字程度の抄録だけで詳しい情報が不足している場合が圧倒的に多い。そこで情報量が不十分な文献を集約して新たな知見を得る方法を2019年度に検討して、「放射線読影レポートの見落とし防止対策」の文献群に適用した成果を発表した【業績(論文1番目)】。同様に、電子カルテシステムの黎明期以降20年間における看護支援機能の発展の傾向を把握するために約500編の文献を調査した結果を発表した【業績(論文2番目、学会発表1番目)】。更に、そもそも学術的な発表が少ない場合の情報源として、業務システムの公式ホームページを活用した試みについて発表した【業績(論文3番目、学会発表2番目)】。 (2)病院間での支援機能の差異が利用者に及ぼすリスクの検討:前年度に検討した「リスク要因を一般化して分類・把握するための概念モデル(暫定版)」について学会発表した【業績(論文4番目、学会発表3番目】。更に、発表後に概念モデル(暫定版)の問題点を改善する作業を行い、論文投稿に向けた作業を継続中である。 (3)支援機能を利用「できない」と「しない」の違いの把握:電子カルテのヘルプデスク問い合わせ事例を利用者行動指向で把握するために2019年度に研究協力病院に導入したツールを用いて集積されたデータを管理・分析する手法を検討しその有用性を検討して発表した【業績(論文5番目、学会発表4番目)】。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
(A)研究実績の概要(1):「放射線画像レポートの見落とし防止対策」に関する論文投稿作業を2019年度から継続して実施したが、当初の投稿原稿の記載量の問題で2分割して再投稿する作業を行った。そのために年度当初の見込みよりも掲載完了までに約半年の遅れが生じて、研究実績(2)や(3)の作業が想定外に遅延する原因の一つとなった。 (B)研究実績の概要(2):論文投稿に向けた作業に想定よりも遅れが生じた。主な理由は次の2点である。①考案した概念モデル(暫定版)には「リスク要因を分類するための手法」にいくつかの曖昧さが内在していたために実装事例のリスク評価の難易度が高いことが明らかとなったが、それらの問題点を克服するためのモデルの改良作業に時間を要している。②本項(A)の作業の遅延により、そもそも①の作業に着手するのが遅れた。 (C)研究実績の概要(3):利用者行動指向で分類したヘルプデスクの事例データを分析するためのツールをExcelで試作した。そして、研究協力病院で蓄積された3カ月分の実データ636件を試行的に分類して提案手法の意義と有用性を検討する研究を計画通りに実施した。その結果、提案手法の有用性は確認できたが、当初予定していた「更に多くのデータを用いた本格的な検証」の段階には至らなかった。主な理由は①本項(A)の作業の遅延が本研究に影響した、②試作した分析ツールでは、データ量が増加した場合に過去の類似事例を検索してグルーピングする処理に課題が残った、の2点であった。 (D)その他の課題:当初計画では「診療支援機能が利用者に与える影響の世代間差異を検討するために、「患者情報の収集」におけるベテランと若手の看護師の作法の世代間差異を把握するためのアンケート調査を研究協力病院で実施する予定であったが、Covid-19による往来自粛のために実質的な進展はなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
(Ⅰ)病院間での支援機能の差異が利用者に及ぼすリスクの検討: 【現在までの進捗状況】の(B)で述べた「概念モデル(暫定版)」の問題点解消の目途は本年度の研究でほぼ立ったので、次年度中に研究を完了できる見込みである。 (Ⅱ)支援機能を利用「できない」と「しない」の違いの把握:ヘルプデスクの問い合わせ事例数が増加すると本年度に作成したツールでは類似事例の検索が困難な問題に対して、次年度は事例の詳細分類のキーワード体系を検討する方法とテキストマイニングで類似事例を抽出する方法の可能性を検討する。 (Ⅲ)支援機能が利用者に与える影響の世代間差異の検討: 当初計画では、研究協力病院が独自開発した「患者情報の収集支援機能」を現地調査した上で、同病院の研究協力者と協議してアンケートの設問設計を行う予定であった。しかし、Covid-19により2年続けて移動を自粛したために本年度中に設問設計に着手することができなかった。なおかつ、現時点でも感染状況が改善していないことを勘案すると残り1年で遅れを挽回するとは不可能と判断してアンケート調査による本課題の遂行を断念し、代替研究として文献情報に基づく調査研究を行うこととする。具体的には、【研究実績の概要】の(1)で述べた看護情報システムに関する過去20年間(約500編)の文献から看護業務の支援機能を抽出する。そして、それらに本項(Ⅰ)で述べた「支援機能の施設間差異によるリスクを把握・分類するモデル」の構成要素の一つである「認知・行動モデルに基づく支援機能の分類方法」を適用して、各機能が看護師の「知覚・認知・判断・実行」のどの段階を支援するものであったかを評価して分類する。そして20年間の傾向を通じて「利便を得るために何を失ってきたのか?それらを失うことが看護師の本質的な能力にどのような影響を与えうるのか?」を検討する。
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Causes of Carryover |
理由:Covid-19の感染拡大の影響で、参加予定だった学会・研究会の現地開催の大半が中止となった。同じ理由で、本研究課題の研究協力者との打ち合わせのための移動(鳥取県・米子市、山口県・宇部市)を自粛した。そのため、旅費・宿泊費として使用予定だった予算に未使用額が生じた。
使用計画:ソフトウェア購入費(テキストマイニングツール等)、旅費・宿泊費(成果発表、情報収集)、論文投稿に関する経費(翻訳費、投稿料、別刷代)として使用する予定である。
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Research Products
(9 results)