2019 Fiscal Year Research-status Report
Research on the International Solidarity of Japanese Proletarian Literature in the Pre-War Period: Focusing on Germany and America
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19K13053
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
和田 崇 三重大学, 教育学部, 准教授 (10759624)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / プロレタリア / 社会主義 / 翻訳 / 移民 / 国際交流 / ドイツ / アメリカ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の初年度にあたる2019年度は、申請時に作成した「研究の目的、研究方法など」に基づき、前年度まで受給した科研費(16K16761)の成果物である私家版「戦前期日本の雑誌・新聞・図書におけるドイツのプロレタリア文学関連記事目録」を参考にして、今度は日本の雑誌や新聞における国際関係の記事の中からアメリカのプロレタリア文学に関する記事を抽出した。また、戦前期のアメリカの左翼雑誌"New masses"と"Partisan review"を調査し、日本関連記事の複写や目録の作成を行った。 調査の結果、プロレタリア文化の日米交流の実態を明らかにする記事が見つかり、一定の成果を得た。特に、日本の『戦旗』とアメリカの"New Masses"との交流は、お互いの成員が書いた作品を翻訳掲載するなど、深い関係が構築されていたことがわかった。たとえば、"New Masses"を発行するジョン・リード・クラブに所属した日本人として、移民の石垣栄太郎や日系人の野田英夫などの画家が有名であり、実際に同誌には石垣の絵が多数掲載されているが、一方で、詩などの文学作品では、日本のプロレタリア文化団体であるナップに所属した池田正樹などが一度日本で翻訳し、それを現地のアメリカ人が翻案(adapted)するという掲載方法が確認できた。 "Partisan review"については、あまり目ぼしい記事は発見できず、日本に関する記事としては、戦後に発行されたものにヒサエ・ヤマモトの短編小説が掲載されており、1970年代に川端康成に関する批評、尾崎放哉の翻訳が確認できる程度であった。 以上に加え、日本とドイツのプロレタリア文学の関係については、「ドイツにおける翻訳と受容(副題略)」と題して11月に口頭発表を行った。次年度以降は、本年度に収集した文献の和訳や内容解析を進め、具体的な研究成果を公開していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究は、当初の計画をある程度達成できた一方で、研究過程で浮上したいくつかの追加調査すべき資料について、十分に掘り下げることができていないため、上記を選択した。 計画どおりに進んでいる点としては、東京大学アメリカ太平洋研究センターなどでアメリカの左翼雑誌を調査して、特に"New Masses"に掲載された日本に関する記事を整理し、成果物として「New Masses誌上における日本プロレタリア文学関連記事目録」をWebサイト(https://www.cc.mie-u.ac.jp/~wadataka/)で公表したことが挙げられる。本格的な分析は次年度以降に行う予定だが、この目録と日本の左翼雑誌の記事を比較することで、アメリカで翻訳された作品の出典やその翻訳過程がある程度明らかになった。 一方で、十分に進んでいない点としては、"Partisan review"で目ぼしい発見がなく、それに代わる先述したような追加調査の資料について、ほとんど手がつけられてないことが挙げられる。調査の過程で、"New Masses"や"Partisan review"のほかに、森山啓の詩が池田正樹の翻訳で掲載された"The Front"という英文左翼雑誌が存在すること、日系移民の左翼団体がアメリカで発行した『階級戦』やJapanese Proletarian Art Group of Los Angelsが1931年3月に創刊した"Proletarian Arts"という雑誌に関する情報を得たが、現時点でそれらの一部しか所在を確認できていない。前年度までに調査した"International Literature"(英語版)や今年度調査した"New Masses"だけでは、プロレタリア文化における日米交流を明らかにするには情報が不足しており、資料の考察へ移行する前にさらなる調査をする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の研究計画では、次年度はアメリカで資料調査をする予定で予算編成をしていたが、新型コロナウィルス感染症の影響で、年度内にアメリカへ渡航できるか不透明である。また、年度当初の時点で閉館や利用制限が相次いでいる国内の図書館や資料館の運用状況も、今後いつ常時に復帰するか見通しが立たない。よって、状況次第では研究期間を3年から4年へ変更することも想定して研究を進めていきたい。 まず、研究計画に掲げたアメリカにおける日本プロレタリア文学の受容状況の分析については、2020年度に収集した資料を用いて、『戦旗』と"New Masses"における日米プロレタリア文学の往来をテーマに研究を進め、論文にまとめることを目標とする。日本の『戦旗』では、アメリカの革命作家マイケル・ゴールドの作品が多数翻訳され、アメリカの"New Masses"では、森山啓や伊藤信吉の詩が翻案掲載された。このような相互の翻訳状況について分析する。また、2020年度末に予定されていたモダニズム研究会における発表が延期となっているが、同会の日程が確定したら、モダニズムをテーマとした日露独米のプロレタリア文化の相関についても分析したい。 次に、【現在までの進捗状況】で前述した追加の文献収集については、在米日系移民の左翼団体の活動実態や関連資料の所在を探求し、原本の確認に向けた調査計画を練り上げる。調査対象となるThe Japanese Proletarian Art Group of Los Angelsについては、宮城与徳の伝記を中心に文献も多く存在するため、それらの先行研究に示唆を受けつつ、何とか一次資料までたどりつきたい。
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Causes of Carryover |
〔理由〕残額が10万円程度であるため、ほぼ予定どおりに執行できたと考えている。東京での資料調査や研究会等への出席もほぼ予定どおり遂行した。しかし、学生アルバイトを利用した収集文献の整理について、業務依頼前の申請者による第一段階の作業が滞ってしまい、結果的に申請者自らがデータ整理などを行うことも多かった。そのため、当初の予定ほど賃金が発生しなかったことが、残額が発生した主な原因と考えられる。 〔使用計画〕本件(次年度使用額)にかかわらず、2020年度は、新型コロナウィルス感染症の影響で研究が予定どおり進まなかった場合、さらに次年度へ基金を持ち越す可能性がある。年度内に無理に予算を執行するのではなく、最悪の場合も想定した執行計画を立て、研究の遂行状況にあった必要経費を使っていきたい。具体的には、旅費や学生アルバイトによる研究補助については2021年度以降の執行も見据えた一定額を確保し、残額を追加の文献収集や必要設備の購入に充て、少なくとも上半期においては、移動や人との接触が少ない研究に収斂した予算執行を行う。
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Research Products
(2 results)