2020 Fiscal Year Research-status Report
Research on the International Solidarity of Japanese Proletarian Literature in the Pre-War Period: Focusing on Germany and America
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19K13053
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
和田 崇 三重大学, 教育学部, 准教授 (10759624)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / プロレタリア / 社会主義 / 国際交流 / ソヴィエト / 紀行文 / モダニズム / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の2年目にあたる2020年度は、昨年度の報告書の「今後の研究の推進方策」で記述したとおり、新型コロナウィルス感染症の影響で申請時に計画していたアメリカへの渡航ができなくなり、研究期間の3年から4年への延長を決め、資料調査については国内も含めて一時中止とした。 また、これまで収集した資料の分析も、同じく新型コロナウィルス感染症対策に伴う授業準備や校務の増加により、十分に行えなかった。そんな中、本研究に関連する業績として3件の口頭発表を行った。 1件目は、戦後冷戦期における日本の文化人の社会主義国渡航をめぐる論考を、AAS-in-Asiaで発表した。第2回ソ連作家大会に参加した徳永直の紀行文を中心に分析し、1950年代の国際的な左翼作家の交流の容態を明らかにした。また、アンドレ・ジイドの"Retour de L' U. R. S. S."(1936)を参照軸に、社会主義国家の紀行文に現れた写実性や批評性についても考察した。 2件目は、大正後期から昭和初期にかけて隆盛したモダニズム文学に関する論考を、モダニズム研究会で発表した。モダニズムとほぼ同義で用いられた〈新興〉や〈尖端〉、〈前衛〉といった言葉の問題と、当時の雑多な外国文学受容の観点から分析し、モダニズム文学の定義が不安定であることを明らかにした。また、同発表に伴い、『モダニズムとマルキシズムに関する叢書一覧』のβ版を作成し、参加者に限定公開した。 3件目は、戦前期ドイツの左翼系メディアにおいて、確認できた範囲で作品が2度翻訳された無名詩人の小林園夫に関する論考を、占領開拓期文化研究会で発表した。正体不明の無名詩人の詩が、当時のプロレタリア文学運動内やその後の詩史において重視された背景を明らかにし、また、ドイツ語への翻訳に際して、人称を複数形に変換したり他作品と結合させるなど、アダプテーションされていることも考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本年度の研究は、年度始めの時点で新型コロナウィルス感染症の影響をある程度想定しながらも、授業準備や校務の増加が予想を上回り、十分に研究時間を確保できず、あまり進捗しなかったため「遅れている。」を選択した。 計画どおりに進んだ点としては、昨年度の「今後の研究の推進方策」に記載したモダニズム研究会における発表を行い、モダニズムをテーマとした日露独米のプロレタリア文化の相関について分析することができたことが挙げられる。会を通じて、ドイツ文学やロシア文学の研究者と意見交換をすることができ、今後の共同研究も見据えた発展的な議論ができた。 計画どおりに進められなかった点は多々あるが、特に日本のプロレタリア文化雑誌である『戦旗』とアメリカのプロレタリア革命雑誌である"New Masses"との相互交流については、分析対象となる資料を揃えていながら、十分に考察をすることができなかった。本課題については次年度に繰り越す。 翻訳の分析についても、わずかに小林園夫の詩のドイツ語訳について分析を進めることができたのみで、英語訳の作品については、未だに分析が未着手の状態である。前記の日米左翼雑誌の相互交流に加え、英語翻訳に関する論考も執筆していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の報告書において、次年度または4年目への研究期間延長を見据えて、アメリカでの資料調査を延期する旨を記載したが、本報告書を執筆している現在においても、まだまだ海外で研究活動ができる状態ではない。来年度には、他の研究課題と協力して国際シンポジウムを開催することを画策しているが、その際の成果報告のためにも、現時点で収集している資料の分析に集中する必要がある。 まず、昨年度からの積み残しである『戦旗』と"New Masses"における日米プロレタリア文学の往来に関する研究を遂行して、アメリカにおける日本プロレタリア文学の受容状況、または日本におけるアメリカの革命文学の需要状況を分析し、論文にまとめることを目標とする。 次に、2019年度に近代文学3学会合同国際研究集会で口頭発表した、エミール・ゾラの『ジェルミナール』を参照軸とした徳永直の『太陽のない街』のドイツでの受容形態について、すでにある程度まとまった論考をブラッシュアップさせ、論文にまとめる。 最後に、本年度に占領開拓期文化研究会で口頭発表した小林園夫の詩に関する分析について、これも論考をブラッシュアップさせ、論文にまとめる。 以上に加え、次年度の国際シンポジウムの開催に向けた招聘者の人選なども進めていきたい。
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Causes of Carryover |
〔理由〕本年度に予定していたアメリカでの資料調査が、新型コロナウィルス感染症の影響で延期となり、アメリカへの旅費や現地での調査費が未執行のままであるため、高額の繰越金が生じている。 〔使用計画〕すでに研究計画の見直しを決め、アメリカへの渡航は中止とし、資料収集は国内の範囲に限定することとした。また、研究期間を当初予定の3年から4年へ延長し、来年度は他の研究課題と協力して国際シンポシンポジウムを開催することを計画している。したがって、残額の多くはさらに次年度へ繰り越すことを想定しており、次年度において、シンポジウムで招聘する研究者の旅費や謝金、来場者に配布する資料の翻訳費用などに当てる予定である。
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Research Products
(4 results)