2021 Fiscal Year Research-status Report
Research on the International Solidarity of Japanese Proletarian Literature in the Pre-War Period: Focusing on Germany and America
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19K13053
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
和田 崇 三重大学, 教育学部, 准教授 (10759624)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本近代文学 / プロレタリア / 社会主義 / 国際交流 / 転向 / 国策 / 翻訳 / アダプテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は当初の研究計画では最終年にあたる年であったが、2021年度末に研究期間の延長申請をして承認されたため、4年計画の3年目にあたる。ただし、研究の進捗は多少遅れているものの、実施内容としては当初の計画に従い、1.社会主義ネットワークを通じた日本と海外の文化交流の様態、2.戦前の日本文学の翻訳・流通状況を明らかにするための研究を試みた。その結果、本助成に基づく研究成果として共著書1件、論文1件、文献翻刻・解題1件、口頭発表2件を公表した。そのうち、めぼしい研究成果として3件の概要を記述する。 1件目は、太平洋戦争中に旧プロレタリア作家が次第に国策加担の生産文学を描くようになった理論的変遷について考察し、イギリスのRoutledge出版より刊行されたIrena Hayter他編『Tenko : Cultures of Political Conversion in Transwar Japan』に寄稿した。以前に採択された科研(16K16761)の研究内容も含む過年度の成果であるが、日本のプロレタリア文化運動に胚胎する転向の問題系について、国際的な書籍で広く公表することができた。 2件目は、新資料である葉山嘉樹の「セメント樽の中の手紙」の戦前ドイツ語訳の翻刻・解題を、所属大学の紀要に掲載した。こちらも、以前に採択された科研(16K16761)の研究内容も含む過年度の成果であるが、解題を付して翻刻を公表したことで、今後、プロレタリア文学や翻訳研究等において広く活用されることが期待できる。 3件目は、徳永直の小説『太陽のない街』のドイツ語訳における翻訳や受容のあり方について、『社会文学』に投稿して掲載された。『太陽のない街』を日独の翻訳と文学史の比較を行いながら分析することで、ドイツで翻訳が断片的に掲載されたり、両国で評価が異なったりしたことの意義を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、研究成果を5件発表したものの、昨年度につづき全体的に計画どおりに進んでいない点が多くあるため、上記を選択した。計画どおりに進んでいない理由は、大きく2点に分けられる。 1点目は、研究課題のサブタイトルに「ドイツとアメリカを中心に」と掲げているものの、アメリカに関する研究が大幅に遅れていることである。本年度に発表した5件のうち2件がドイツに関わる内容であり、残り3件は日本国内のプロレタリア文化運動に関わる成果であった。アメリカでの調査ができていないため、一次資料が十分に揃っているとは言いがたいが、二次資料を参照しながら限られた一次資料を分析することで、これまでにない研究成果を出せる可能性は十分にある。日本とアメリカにおけるプロレタリア文化運動の交流や翻訳状況について、研究を加速させたい。 2点目は、本年度に開催予定であった国際シンポジウムを延期したことである。しかし、この延期については積極的な遅延であると考えている。日本のプロレタリア文化研究だけでなく、ドイツやアメリカ、そしてロシアも含んだ国際的な視野で研究を進めるうちに、本研究課題の採択期間中に、プロレタリア文化や社会主義文化に関心を持つドイツ文学者やロシア文学者、中国文学者と知己になる機会を得ることができた。その結果、当初予定していた本助成のみを用いた小規模な国際シンポジウムではなく、3つの科研を共催とした大規模な国際シンポジウムの開催が企図されるに至った。 以上のように、研究進捗としてはやや遅れているが、中には来年度に飛躍できる要素も含んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】に記載のとおり、日本とアメリカにおけるプロレタリア文化運動の交流や翻訳状況についての研究が大幅に遅れているため、重点的に取り組みたい。特に、2020年度から21年度に繰り越した『戦旗』と"New Masses"における日米プロレタリア文学の往来に関して、未だ分析途中であるため、研究期間内に基礎研究をしっかりと固めたい。 同じく、【現在までの進捗状況】に記載のとおり、3つの科研を共催とした国際シンポジウムを予定どおり開催したい。これについては、開催日(2022年7月30・31日)の1年前にあたる本年度夏頃から準備委員会を設置して、国内外のシンポジストの選定、全体テーマや各セクションのテーマ設定を入念に進めてきた。申請者も主催者の一人として1セクションの司会を担当し、他の研究者の報告をとりまとめながら、自身の研究内容の相対化を試みたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由について、【現在までの進捗状況】に記載のとおり、研究の進捗がやや遅れており、研究期間を1年延長したため、次年度使用額が生じた。また、これも【現在までの進捗状況】に記載のとおり、2021年度に開催予定であった国際シンポジウムを、新型コロナウィルス感染症の影響で2022年度に順延したため、該当予算を繰り越した。 使用計画について、繰越額の多くは、3つの科研で共催する国際シンポジウムの予算に割り当てられる。「社会主義文化のグローバルな伝播と越境:「東」の公式文化と「西」の左翼文化」(19H01248)、「プロレタリア文化運動研究:地方・メディア・パフォーマンス」(18H00621)、及び本研究とで共催し、開催費用をこの3つの科研費で分担する。本研究課題では、日本国内在住のシンポジストの旅費等を分担する予定で、これにより繰越額のほとんどが執行される。残額については、日本とアメリカのプロレタリア文化研究に必要な参考図書の購入経費にあてる。
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Research Products
(5 results)
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[Book] Tenko: Cultures of Political Conversion in Transwar Japan (Nissan Institute/Routledge Japanese Studies)2021
Author(s)
Brice Fauconnier, Irena Hayter, Hong Jong-wook, Lee Juhee, Jeff E. Long, Murata Hirokazu, Viren Murthy, Naito Yoshitada, Nakagawa Shigemi, George T. Sipos, David Stahl, Wada Takashi, Max Ward, Mark Williams
Total Pages
290
Publisher
Routledge