2019 Fiscal Year Research-status Report
新出資料紅梅文庫旧蔵本を中心とした三条西家源氏物語本文の再構築に関する研究
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19K13063
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
上野 英子 実践女子大学, 文学部, 教授 (60205573)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 源氏物語 / 室町時代の享受史 / 三条西家の源氏学 / ふたつの定家本 / 紅梅文庫旧蔵本 / 三条西実隆 / 細流抄 / 寄合書き |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者はこれまで「ふたつの定家本源氏物語と三条西家本―付実隆文明本の転写本としての紅梅文庫旧蔵本紹介」「紅梅文庫旧蔵本源氏物語について―いま、なぜ、紅梅文庫旧蔵本なのか」(前者は2017年3月文芸資料研究所「年報」36号、後者は2019年3月同38号所収)を発表してきた。前者では古注釈の時代から用いられてきた青表紙本という概念を、六半本・四半本という藤原定家が書写したふたつの源氏物語写本から捉え直し、新出資料の紅梅文庫旧蔵本が現存する六半本に近接していること、その接近度は現存する最善の青表紙本(四半本)とされている大島本以上であったこと等を発表した。後者ではかかる紅梅文庫旧蔵本は、三条西実隆が最初に作成した源氏写本〈文明本〉(散逸)の転写本系にあたることを説明してきた。 そして今回は3部作のまとめとして「いま、なぜ、三条西家本なのか」というタイトルで三条西家の本文を再検証することの意義を論じた。すなわち従来は恣意的に書写したのだろうとされてきた三条西家本だが、三条西公条の「古今伝授(切紙)」によれば、明らかに定家の誤写と判断できるくだりであっても、転写時には誤写のまま写すようにとの指示があったこと。その教えは定家本古今和歌集を実隆が書写した本文からも実証できたことなどから、三条西家の書写態度は決して恣意的なものではなかったことを論じた。なお今年度は上記3部作も含めて、研究代表者のこれまでの諸説をまとめた単著『源氏物語三条西家本の世界―室町時代享受史の一様相』を刊行した。 初年度はまた研究代表者の呼びかけに応じてくれた研究者仲間と最初の研究会(源氏物語本文研究会)を立ち上げた。初回は研究代表者以外に斎藤鉄也氏による「仮名字母の出現傾向に基づく紅梅文庫旧蔵本源氏物語の調査」「Ngramを用いた紅梅文庫旧蔵本源氏物語の本文分類」が報告され、次年度以降も開催していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の2点が順調に進んでいる。第1点は『源氏物語大成 校異編』本文の入力作業。「桐壺」から「澪標」まで終了し、そのデータをもとに「若紫」「末摘花」について諸本の翻刻本文を入力、校異を抽出中である(結果は次年度の研究会にて公開予定)。 第2点は当該研究テーマに関心をもつ研究者との研究会を立ち上げたこと。最初の研究会では研究代表者と齊藤鉄也氏が報告を行ったが、その結果は共に文芸資料研究所「年報」39号にて公刊した。なお今年度は新たな青表紙原本が再発見されたとして、定家本「若紫」巻が公刊された記念すべき年でもある。研究代表者をはじめとして研究会メンバーはそれぞれ自由な視点からこの新出資料や紅梅文庫旧蔵本を中心とした諸本の位相を分析中であり、その結果は2年目の研究会にて公表予定である。最終年度には、それまでの公表分も併せて報告書にまとめ、紅梅文庫旧蔵本の影印と共にインターネット公開する予定である。 一方、学外機関所蔵の紙焼きの入手は思うように進まなかった。また年度末に集中的に予定していた書誌調査も、新型コロナウイルスの影響で全てキャンセルとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の目標は下記の4点である。 (1)紙焼き本の入手を急ぎ、書誌調査を再開する。書誌調査の際は紙焼きでよく識別できなかった訂正・書き入れ箇所を中心に、これらを目視で確認していく。また寄合書きの実態に注意してみていくことに重点をおいていく。 (2)『源氏物語大成 校異篇』本文の入力作業を続行する。 (3)そのデータを元に諸本の翻刻本文を入力し、本文異同の調査を行う。入力がほぼ終了した「若紫」「末摘花」については、分析結果を報告書にまとめる。また今年度は鎌倉期写本「須磨」(別本)、同「幻」(河内本)の影印も独自に入手できる見込みなので、こうした新出資料との本文比較も行う予定である。具体的には、現存数が稀な鎌倉期古写本と比較しての紅梅文庫旧蔵本の漢字使用率を確認する(鎌倉期の古写本と同様に漢字使用率が低ければ、紅梅文庫旧蔵本「須磨」「幻」の底本は古い写本であって、その表記法を忠実に書写していた可能性が考えられる)。これまでは青表紙系諸本との比較が中心だったが、「須磨」「幻」では青表紙系以外の本文も加えることによって、本文系統の問題を考える足がかりとしたい。 (4)昨年公刊された定家本若紫を中心に、紅梅文庫旧蔵本をはじめとする諸本との比較をテーマとした第2回研究会を開催する。 本科研は当初の申請計画に示したとおり、最終年度までこのような形で紅梅文庫旧蔵本各巻の本文の位相を調査し、研究会によって報告検証するという方針に変更はない。なおインターネットでの公開に先立ち、より使いやすくするための工夫(紅梅文庫本の各画像が、『源氏物語大成校異篇』『源氏物語(小学館日本古典文学全集)』のどの頁に相当するかを明示するなど)を模索する。
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Causes of Carryover |
初年度は当初予定していた支出が、新型コロナウイルス等をはじめとする諸事情により消化できなかった。この差額は次年度に予定している貴重書の購入費等に充てたい。
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Research Products
(3 results)