2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K13070
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
高橋 麻織 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 講師 (80588781)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生育儀礼 / 生誕儀礼 / 御佩刀の儀 / 産養 / 歴史資料 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、出産にまつわる生誕儀礼のうち、「御佩刀の儀」と「産養」の調査を進めた。①研究発表「明石姫君誕生時における「御佩刀の儀」―禎子内親王といぬ宮の事例―」(日本文学協会、第39回研究発表大会、2019年7月7日(日)、於 京都女子大学)では、『源氏物語』「澪標」巻で明石姫君が誕生した際、光源氏から「御佩刀」が遣わされることについて、研究発表を行った。従来の研究では、准拠がない事例と見なされてきた。確かに、物語成立以前に女児誕生時の「御佩刀の儀」の事例はなく、禎子内親王の事例が最も古いものである。しかし、本発表では『うつほ物語』において、主人公仲忠が娘・いぬ宮の誕生時に「御佩刀」を贈ることを『源氏物語』の准拠として指摘した。これまで禎子内親王の事例がことさらに強調されてきたのは、『栄花物語』の叙述によるところが大きい。それは歴史的事実かどうか判断しづらく、あくまでも『栄花物語』の論理として考察する必要性を指摘した。 この研究発表にもとづき、③研究論文「『源氏物語』明石姫君誕生時における「御佩刀の儀」―『うつほ物語』いぬ宮の事例を踏まえて―」を日本文学協会に投稿し、現在、査読を受けている段階である。②研究論文「紫式部はどのような宮廷女房生活を送ったのか」(松田浩・上原作和・佐谷眞木人・佐伯孝弘編『『古典文学の常識を疑うⅡ』勉誠出版、2019年9月10日)は、『紫式部日記』の記事をもとにして、平安時代の女房の生活実態について論じた。『紫式部日記』には「産養」についての詳細な記事があるのでそれらも調査対象として扱っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、出産に関わる生誕儀礼のうち、「御佩刀の儀」と「産養」について調査・検討を進めた。「産養」の調査は、以前より取り掛かっていたものがあったので、それを踏まえつつ、さらに『御産部類記』や『御堂関白記』など古記録類の記事にあたり、主催者の傾向や贈り物の内容と個数について調査した。これにより、「産養」の主催者と儀礼に使用する品々の贈り主との関係は政治上のものであることが見えてきた。さらに、『うつほ物語』には「産養」の記事が膨大にあるので、この調査にも取り掛かっている。新たなことがわかれば、そのつど発表するなどし、引き続き、調査・検討を進めていきたい。 本年度の成果として大きいのは「御佩刀の儀」についての調査・検討である。「御佩刀の儀」は、これまで取り上げられることの少なかった儀礼で、今回、刀剣の贈り主に焦点を定めて歴史資料やつくり物語における御佩刀の儀について悉皆調査した。それを踏まえて、『源氏物語』に描かれる明石姫君誕生時と、匂宮と宇治中の君の第一子誕生時の二例について考察した。明石姫君の「御佩刀の儀」について、先行研究では物語の独創的な場面ととらえられており、物語成立期以降の史実である禎子内親王の事例が比較対象として挙げられることが多かい。 しかし、今回の調査により、『うつほ物語』いぬ宮の誕生時にも御佩刀の儀が描かれていること、そしてそれが『源氏物語』の准拠であることがわかった。これについて発表したものが、①研究発表「明石姫君誕生時における「御佩刀の儀」―禎子内親王といぬ宮の事例―」(日本文学協会第39回研究発表大会、2019年7月7日(日)、於 京都女子大学)であり、これを踏まえて調査し直し、③研究論文「『源氏物語』明石姫君誕生時における「御佩刀の儀」―『うつほ物語』いぬ宮の事例を踏まえて―」を日本文学協会に投稿し、現在、査読中である。これが本年度の最大の研究成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方としては、初年度の「御佩刀の儀」の調査・考察を継続することと、新たに、「五十日・百日の祝」について調査したい。 「御佩刀の儀」について、日本文学協会での研究発表によって、新たな研究の方向性が見いだせた。『うつほ物語』いぬ宮の事例を新見とした論文を既にまとめて投稿したことは先述の通りであるが、それに加え、先行研究で禎子内親王の事例が取り上げられていた経緯を再検討するという視点である。 これは、『源氏物語』明石姫君誕生時「御佩刀の儀」の事例に准拠がなく、似たケースとして物語成立期以降の史実である禎子内親王の事例が『河海抄』に挙げられていたことに端を発する。そして『河海抄』が禎子内親王を准拠として挙げる根拠が、『栄花物語』の禎子内親王誕生時の記事なのである。このことは、歴史物語である『栄花物語』の記事を歴史的事実そのものとして判断した『河海抄』の注釈態度として捉えることができよう。これについて、補足的に調査などを行い、1年以内に論文にまとめて発表する予定である。 「五十日・百日の祝」に関しては、一昨年、研究論文「薫の生育儀礼の政治的意義―産養・五十日の祝い・元服をめぐって―」(原岡文子・河添房江編『源氏物語 煌めくことばの世界Ⅱ』翰林書房、2018年4月)において、「柏木」巻に描かれる薫の「五十日の祝」を中心に検討した。それらの調査・考察を踏まえ、次は『うつほ物語』などつくり物語に描かれる儀礼として取り上げ、歴史資料から見いだせる実態とのあいだに差異はないか、また物語にはどのように描かれているのか具体的に考察したい。以上、二点から調査・考察を進める予定である。
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Causes of Carryover |
学会出張などにともなう旅費を学内の個人研究費であてていたことと、この科学研究費の旅費を使用する予定であったシンポジウムが台風で中止になり、海外出張はコロナの影響で中止となったため。
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Research Products
(2 results)