2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K13070
|
Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
高橋 麻織 椙山女学園大学, 国際コミュニケーション学部, 准教授 (80588781)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 生育儀礼 / 生誕儀礼 / 御佩刀の儀 / 歴史資料 |
Outline of Annual Research Achievements |
三年目にあたる本年度は、これまでの「御佩刀の儀」の調査対象をさらに広げ、『栄花物語』や『大鏡』など歴史物語にもあたった。それにより、『源氏物語』に描かれた独創的な叙述が歴史物語に継承されることについて発見できた。具体的には、天皇に男皇子が誕生した際、その皇位継承の可能性を強調するため、天皇からの「御佩刀」が下賜される点である。研究発表「『栄花物語』元方の怨霊と創造された〈歴史〉―立太子争いの敗者の系譜」では、『栄花物語』が広平親王誕生時の「御佩刀の儀」を描くことで、広平親王の立太子の可能性を強調し、立太子争いに敗れて憤死した外祖父元方の怨霊化の信ぴょう性を高める意図が読み取れることを指摘した。このような『栄花物語』の書き方は『源氏物語』に倣ったものであり、生育儀礼が実態と異なって描かれる時、「物語の論理」を看取できる。研究発表ののち論文としてまとめ、投稿済みである。 次に、研究発表「『源氏物語』の現在―世界の中の日本文学」は、海外の大学からの依頼を受けたものである。これまでの研究成果を紹介しつつ、歴史資料を踏まえることで源氏物語の読解がどのように更新されるか紹介し、生育儀礼についても触れた。近年、源氏物語の研究は細分化されるが、幅広い視野で自身の研究の位置づけを見直す良い機会になった。 最後に、「『源氏物語』「竹河」巻を読み直す―求婚譚の行方」は、冷泉院の皇子女の誕生場面を取り上げた。これまでの調査・考察を踏まえると、『うつほ物語』『源氏物語』『栄花物語』では、皇位継承の可能性の高さを示す際、詳細な生育儀礼が叙述されている。しかし、「竹河」巻で誕生した冷泉院の皇子に関しては、生育儀礼の記述が全くない。これは物語における位置づけを示唆するものと考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三年間の進捗状況を振り返ってみると、調査自体はほぼ計画通りの進み具合といえる。ただし、本年度は研究発表する機会が減っていることや、個人的な事情から研究に向かう時間が減っており、研究成果の発表はやや遅延している。 今年度は、生育儀礼の調査対象をさらに広げることができた。前年度までに行った『源氏物語』や『うつほ物語』などつくり物語に描かれる「御佩刀の儀」が、歴史物語にはどう叙述されているか調査・検討している。特に進展があったのは、『栄花物語』の悉皆調査である。そのうち、広平親王、懐仁親王、藤原頼通、実仁親王の誕生時に行われた「御佩刀の儀」は、古記録には言及されておらず『栄花物語』にのみ記される。特に、広平親王と実仁親王は、『栄花物語』では皇位継承者として描かれており、これを『源氏物語』の叙述からの影響と見て、研究発表を行った。そこでは、広平親王の立太子の可能性を強調することで、それが叶わなかった際の外祖父元方の落胆と憤死、それが怨霊化につながるものとして描かれている。現実的には、更衣所生の皇子であり皇位継承とは関わりのない存在である広平親王に「御佩刀の儀」が行われたかどうか疑わしい。それを明記するのが『栄花物語』だけである点は、「物語の論理」として読解する必要があると考える。 一方、実仁親王は、実際、立太子した事実があるので、『栄花物語』による歴史の創造と断じることはできないが、やはり皇位継承の可能性を強調するための叙述という観点には変わりない。実仁親王については、次年度、研究成果を発表し、広平親王のケースとともに論文としてまとめたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
この三年間、「産養」「御佩刀の儀」「五十日・百日の祝」について調査してきたが、より興味深いのは「御佩刀の儀」である。本研究に取り掛かる前から想定していた、『うつほ物語』『源氏物語』『栄花物語』という文学史上の流れによる影響関係が明確だからである。具体的には、歴史資料の悉皆調査により把握した「御佩刀の儀」の実態と、少し齟齬する形で描かれる『うつほ物語』、その影響を受けた『源氏物語』がさらに独創性を加え、『源氏物語』の歴史認識を踏まえた『栄花物語』というように、非常にわかりやすい論理が指摘できたからである。先行研究では女児には「御佩刀の儀」は行わないと論じられてきたが、実は『うつほ物語』に主人公仲忠が娘いぬ宮の誕生時に行った儀式として描かれ、それを受けて『源氏物語』で主人公光源氏がやはり娘である明石姫君に刀を遣わす。『うつほ物語』のいぬ宮と『源氏物語』の明石姫君は、「后がね」という共通点がある。さらに、『源氏物語』で匂宮の第一子に今上帝から賜剣されたことは皇位継承の可能性を示唆するもので、これが『栄花物語』の広平親王や実仁親王の誕生時の記事と重なる。このあたり、物語本文の表現を丁寧に追いつつ、論文にまとめていきたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナの影響で参加予定であった研究会(物語研究会は毎月関東圏で例会が開催される、古代文学研究会は隔月京都で開催される)や学会(春季大会は東京、秋季大会は北海道大学の予定であった)が全てオンラインに移行したため、交通費や宿泊費が不要となったことがある。さらに、体調不良のため、研究に充てる時間がなかったことも関係する。 (6月~7月入院予定)
|
Research Products
(2 results)