2019 Fiscal Year Research-status Report
近世日本「白話文化」の研究―唐話学・白話文学受容の文学史的位置づけ―
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19K13078
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Research Institution | Shujitsu University |
Principal Investigator |
丸井 貴史 就実大学, 人文科学部, 講師 (20816061)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 白話小説 / 初期読本 / 浮世草子 / 大雅舎其鳳 / 都賀庭鐘 / 上田秋成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近世中期の浮世草子および初期読本における白話小説受容について、主に文学史的な観点からの検討を進めた。 研究発表「初期読本と浮世草子―白話小説利用法からの検討―」(和漢比較文学会大会公開シンポジウム「日本文学のなかの白話小説・再考」)は、大雅舎其鳳の浮世草子『太平記秘説』に焦点を当て、白話小説を媒介として初期読本と浮世草子が同じ方向性を志向したと思われる例を指摘したものである。該作については、「翻刻 大雅舎其鳳『太平記秘説』(巻一・二)」(『鯉城往来』第22号)において、前半部分を翻刻した。後半は同誌の次号に掲載する予定である。 初期読本における翻案の手法については、「「死生有命」の和漢―「菊花の約」と白話小説―」(『日本文学』第68巻第6号)を発表した。これは、上田秋成『雨月物語』所収「菊花の約」と原話「范巨卿鶏黍死生交」において「死生有命」の意味合いが異なることを指摘し、白話小説を対置することにより、「菊花の約」の解釈に新たな視角をもたらし得ることを論じたものである。 白話小説そのものについては、「『今古奇観』諸本考補遺―本衙蔵板本・書肆不明本管窺―」(『就実表現文化』第14号)を発表した。これは、近世日本に多大な影響を与えた短篇白話小説集『今古奇観』の諸本について、本衙蔵板本と書肆不明本を調査したものである。『今古奇観』諸本全貌の解明に向けて、新たな知見を提供し得たものと思う。 その他、ASCJのパネルセッション "Asian Heroes - Transmitting the Narratives of the Three Kingdoms" においてディスカッサントを務めた。『三国志演義』から派生した演劇作品の研究と、白話小説受容の研究を融合することで、有意義な議論を展開することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、特に小説分野における白話文学受容についての研究を進めた。吉文字屋から刊行された浮世草子のひとつである大雅舎其鳳『太平記秘説』に白話小説が利用されていることは以前より指摘されていたが、それが初期読本と末期浮世草子の性格に関する類似性と差異性を考察するための手がかりとなることを見出し得たのは、ひとつの大きな成果であった。『太平記秘説』についてはすでに前半部の翻刻を発表し、後半部も翻刻をほぼ終えていることから、分析のための基礎的作業はほぼ整っているといえる。 また、近世日本において広く読まれた白話小説である『今古奇観』の諸本についても、調査を進めることができた。本作を原話とする近世小説は数多くあり、今年度の調査は、それら近世小説の底本を明らかにするために不可欠なものである。さらにこの調査を進展させることにより、近世日本における『今古奇観』諸本の流布状況が明らかになることも期待される。 重厚な研究史の存する『雨月物語』においても、白話小説翻案の手法については、なお検討の余地がある。今年度は「菊花の約」を題材として、作品論的観点からこの問題に言及したが、さらに踏み込んだ分析を来年度以降進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
浮世草子と初期読本の間におけるジャンルの問題は、これまでにも広く議論されてきたことであるが、白話小説受容のあり方に注目することで視界が開ける可能性が出てきた。『太平記秘説』における翻案手法を精緻に分析することで、さらに検討を進めたい。また、『太平記秘説』を刊行した吉文字屋は、白話小説を積極的に利用した書肆のひとつである。この書肆の出版活動と白話小説との関連性についても調査を行いたい。 近世における白話小説受容に関しては、読本を題材に論じられることが多く、それ以外のジャンルに関しては研究がきわめて少ない。小説に限らず、白話の影響が看取される文藝作品を広く対象とし、考察を進めることが今後の大きな課題である。また、唐話辞書や通俗物など、近世日本「白話文化」の中心に位置する書物に関しても、先行研究は多くない。まずは着実に個別の作品分析を進めることが肝要であるが、その成果を集積することにより、それらの作品群を総体的に把握し、文化史・文学史の中に位置づけることを目指す。
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Research Products
(5 results)