2019 Fiscal Year Research-status Report
筆者伝承にみる室町戦国期の女性の文芸活動 一位局を中心に
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19K13081
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Research Institution | National Institute of Technology, Toyota College |
Principal Investigator |
江口 啓子 豊田工業高等専門学校, 一般学科, 講師 (00824476)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 一位局 / 女性筆者 / 近衛政家 / 古筆伝称 / 古筆鑑定 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は一位局の筆者伝称を持つ作品を調査するとともに、一位局に関する言説の収集と分析を行った。 作品の調査については、慶應義塾大学図書館蔵の『花鳥風月』、早稲田大学図書館蔵の『小敦盛』の調査を行った。しかし、海外の作品も含めて集中的に調査を行う予定であった3月に新型コロナウイルスの影響で出張が困難となったため、当初の計画よりも成果をあげることができなかった。 一方、一位局に関する言説の収集と分析についてはある程度の成果をあげることができた。まず、江戸から明治にかけての画史、画人伝における一位局にまつわる言説を集め、比較を行ったところ、時代を下れば下るほど言説が豊かになっていることが明らかとなった。明治21年(1888年)の『扶桑画人伝』では、一位局が土佐派の画風を学んだという記述が追加される。この情報の増補は、『うたたね草子』の鑑定の影響によるものと考えられる。国立歴史民俗博物館所蔵高松宮家本『うたたね草子』は土佐光起の手による作品であるが、ボストン美術館所蔵『うたたね草子』はこの高松宮家本を模して作られた絵巻と考えられ、その伝称筆者が一位局なのである。また、明治25年(1892)に書かれた楊斎延一の錦絵「飛鳥井の息女」では一位局の説話化が見られる。また、一位局は近衛政家(1445~1505)の妻室であったことがわかり、近衛政家の日記『後法興院記』を調査したところ、近衛家と飛鳥井家の長年にわたる交流と、宗祇等連歌師たちとの交流が見えてきた。当時の近衛家は一種の文化サロンであったと言え、これが一位局という後世まで伝称される女性筆者を生み出した背景と考えられる。 これらのことについては2019年7月に行われた絵入り本国際研究集会において「室町時代の女性筆者「一位局」の伝承 」として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は一位局の筆者伝称のある作品を調査することに重点を置いていた。しかし最も研究を集中して行えるはずだった3月に新型コロナウイルスの影響で出張に行くことが困難となり、調査が中断してしまった。そのため、一位局筆の作品としてリストアップした多くの作品が未調査になっている。しかし、その代わりに一位局に関する言説の収集と分析については進めることができた。当初予定していた通りの進行ではないが、計画全体としては「やや遅れている」ぐらいに留めることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、作品の現地調査をするという当初の方針を変える必要があると考えている。もちろん、現地調査が一番望ましいのであるが、今の社会情勢がいつまで続くか見通しが立たず、調査の予定が立てにくい。そこで、まずは作品の所蔵先へ写真データの提供を依頼することを考えている。その上で、現地調査が可能になった際には改めて作品を実見したい。また、すでに調査済みの作品を精緻に分析することで新たな発見につなげていきたい。 一位局関連の言説の収集と分析についても、長らく多くの図書館が閉館しているため、不特定多数の資料を網羅的にあたるという方法がとれない。そのため、分析する資料のターゲットを絞り、これまでとは異なるアプローチで分析を進めていくことを考えている。
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Causes of Carryover |
今年度、3月にアメリカでの絵巻の調査及び、ダートマス大学主催の国際ワークショップ参加のため、海外渡航費として旅行費を多く見積もっていたが、新型コロナウイルスの影響で渡航をキャンセルせざるを得なくなった。また、3月中に行う予定であった国内調査にも行けなかったため、旅費が大幅に残ることとなった。3月に予定されていたワークショップは10月に開催が延期された。アメリカ及び国内での調査も新型コロナウイルスの問題が収束してから実施する予定である。よって、今年度用いなかった旅費は次年度に使用する予定である。また、もし現地へ調査に行く見込みが立たない場合はデジタル画像データの使用料として運用したいと考えている。
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Research Products
(3 results)
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[Presentation] 女たちの寝室2020
Author(s)
江口啓子
Organizer
Visualizing Texts, Reading Images Workshop III Thinking <Women X Women> in Japan
Int'l Joint Research / Invited
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