2022 Fiscal Year Research-status Report
筆者伝承にみる室町戦国期の女性の文芸活動 一位局を中心に
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19K13081
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Research Institution | National Institute of Technology, Toyota College |
Principal Investigator |
江口 啓子 豊田工業高等専門学校, 一般学科, 准教授 (00824476)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 一位局 / 女性筆者 / 小敦盛 / 義経奥州下り / 八島 / 西行物語絵巻 / 近衛家 / 古筆鑑定 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度の主な研究実績は以下の3点である。 ①『伝承文学研究』第71号に「『小敦盛』の主題の変遷―高僧の物語から女人往生の物語へ―」が掲載。 ②飛鳥井一位局筆とされる作品を新たに二作品確認。 ③飛鳥井一位局筆とされる津軽家旧蔵本『西行物語絵巻』の伝来を確認。 ①については、2021年度に伝承文学研究会大会で発表したものを論文としてまとめたものである。飛鳥井一位局筆とされる早稲田大学図書館蔵本『敦盛絵巻』は諸本分類において甲類と分類されているが、その甲類の最大の特徴である敦盛の遺児が西山の善恵上人になるという結末を持たない。代わりに他の甲類諸本にはない北の方の往生が描かれている。物語の主題として女性に焦点があたる改変が行われているという点から早稲田本の筆者が女性である可能性について論じた。②について、これまで未確認であった飛鳥井一位局筆とされる作品を新たに二作品確認した。国立国会図書館蔵『義経奥州下り』とニューヨーク公共図書館蔵『八島』である。いずれも義経を主人公とした作品であることが注目される。飛鳥井一位局筆とされる『恋路の草子』と関わりの深い『みなつる』も義経物であるが、いずれも幸若舞曲の影響のもとに成立している作品である。また、『小敦盛』も含めて源平合戦物において一位局という女性筆者名が共通して伝称されている点も注目され、今後この二作品については調査を行う予定である。③については、2022年3月に実装された国立国会図書館の次世代デジタルライブラリーの全文検索機能を用いて調査を行ったところ、津軽家旧蔵本『西行物語絵巻』の伝来が明らかになった。1931年の『日本名宝大観』(東洋文化協会)などによれば、この絵巻は近衛家から津軽家へ輿入れの際に伝わったものであるという。一位局は近衛政家室であったことを考えると、津軽家旧蔵本『西行物語絵巻』の筆者伝称の信憑性が高まった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究計画において当初に予定していた海外における諸本調査が終了していないということが最大の要因である。新たにアメリカにおいて飛鳥井一位局筆とされる資料が見つかったため、当初に予定していたボストン美術館蔵『うたたね草子』と合わせて資料調査を行うことを考えている。また、一位局という女性筆者についての資料を探すうえで、これまでは関連があると思われる資料を片端から調べるという方法をとらざるを得なかった。例えば近衛政家の日記『後法興院記』などはOCR化し検索をしやすくするどの工夫を行ったが、いずれにしても地道な作業が必要であった。そのため思うような成果をあげられていなかった。しかしながら、2022年3月以降、国立国会図書館の次世代デジタルライブラリーにて膨大な資料の全文検索が可能になり、一気に研究の進度が速まったと同時に新たな研究課題も明確になった。ここ数年でデジタルアーカイブやさまざまな検索ツールが充実し、調査可能な範囲が大きく広がったが、それゆえに研究課題の進捗状況も現在調査可能な範囲を考えると遅れていると言わざるをえない。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに確認された飛鳥井一位局筆の資料もあわせ、国内外の資料の調査を完了させる。2022年は古筆鑑定のシンポジウムにも参加し、手鑑など古筆家関連の資料から古筆家における鑑定の知見を得た。一位局の伝称と古筆家の鑑定活動との関わりについての調査をさらに深めていく。また、『義経奥州下り』や『八島』、『恋路の草子』の絵とテクストの分析をさらに進め、一位局筆とされる作品に共通する特徴を明らかにするとともに、これら一位局筆とされる作品群から幸若舞曲の物語草子化の問題についても考察を行う。このように新たに調査、分析を進めるとともに、昨年度から行ってきた研究、調査の成果を学会等で発表し、論文としてもまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
本研究の予算の多くを占めているのは資料調査や学会参加のための旅費である。本来の研究計画では海外での資料調査および研究発表を予定していたが、新型コロナウイルス感染症などの影響によりこれらの予定を未だ実行できずにいる。また、国内における各種研究会や学会への参加についてもオンライン開催のものが増え、オンラインで参加してもよいものについてはオンラインで参加したため、旅費の使用も最小限に留まっている。今年度は海外での資料調査および研究発表を予定しており、さらに国内の学会も対面形式のものが増えているため、これまで使用できていなかった旅費を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)