2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
19K13083
|
Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
安岡 佳穂子 (井黒佳穂子) 国文学研究資料館, 古典籍共同研究事業センター, 特任助教 (90743104)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 御伽草子 / 異性装 / ジェンダー / 異類婚姻譚 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで、姫君に対する狐の恋愛感情を描いた異色の作品である御伽草子『玉水物語』を取り上げ、従来の分類による「異類物」ではなく、「公家物」として見た場合、牡の狐が人間の女に変身するというトランスジェンダー的特徴、プラトニックな恋愛関係を貫いたことが、姫君の繁栄に収斂していることなどから、より女性に向けられた恋愛譚として成立していることを指摘した。今年度は後ろ盾のない姫君の、恋と流浪の過程に注目し、『源氏物語』の夕顔や浮舟、『狭衣物語』の飛鳥井女君、『住吉物語』の姫君から、御伽草子の公家物に分類される作品から特に「嫁いじめ」の物語について分析した。 御伽草子における「嫁いじめ」は、いわゆる〈しのびね型〉と称される構造に類する作品が多く、『しぐれ』、『桜の中将』、『志賀物語』、『縁弥生』、『若草物語』、『車僧』などが上げられる。「嫁いじめ」の場合、身寄りの無い女君は男君の邸に引き取られるも、「男君の親(主に父親)」は女君を気に入らず、追い出してしまう。男君がようやく探し当てた時には、①女君は流浪の末に亡くなっていた、②女君は入内し手の届かない存在になっていたという展開になる。中世王朝物語では②の場合、男君は女君のために出家、あるいは死亡し、女君も生涯男君を忘れることなく物語は終わる。ところが、御伽草子になると死んだはずの女君が蘇生したり、女君を追い出した男君の実家側が報いを受ける伝本が出てくる。また、女君の異母妹や、男君の姉妹あるいは母親が積極的に女君の味方をする場合が見られる。王朝物語から御伽草子にかけての物語で、はかなげな姫君が迫害され、恋人と引き離される悲恋譚から、同性の助力を得て救済され、幸せな結末を獲得する物語へと変貌していく様相を概観した。
|