2021 Fiscal Year Research-status Report
〈判官物〉の語り物の基礎的研究―幸若舞曲・説経・古浄瑠璃の影響関係の究明
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19K13084
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Research Institution | National Institute of Japanese Literature |
Principal Investigator |
粂 汐里 国文学研究資料館, 研究部, 特任助教 (50838050)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 幸若舞曲 / 古浄瑠璃 / 語り物 / 判官物 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、〈判官物〉に分類される語り物(幸若舞曲、説経、古浄瑠璃)の作品について、次の四つの段階で研究を推進する。 (1)国内外の〈判官物〉作品の調査、書誌・画像データの収集、(2)語り物の〈判官物〉の上演記録の調査、(3)語り物の〈判官物〉テキストの比較検討、(4)〈判官物〉絵画の比較検討 2021度は、(1)として、2021年10月に尼崎市立歴史博物館蔵「新曲図扇面」30面の観覧調査を、2022年3月に神戸女子大学古典芸能研究センター志水文庫に所蔵される6点の判官物の資料(『〔八島〕』『大織冠』『浄瑠璃御前物語』『天狗の内裏』『判官鞍馬登』)の書誌調査と資料撮影を行った。上記の機関以外にも、堺市博物館蔵扇面画帖、宮崎県立文書センター『常盤問答』、シカゴ美術館蔵『浄瑠璃御前物語』、NYスペンサーコレクション蔵『八島尼公物語』などの調査を終えておく予定であったが、新型コロナの感染状況から実施が難しく、断念せざるを得なかった。そこで、これまでの成果報告の一部を論文化した上で2022年度研究成果公開促進費(学術図書)の公募に申請する方向に切り替え、神戸女子大学古典芸能研究センター志水文庫『判官鞍馬登』、尼崎市立歴史博物館蔵「新曲図扇面」30面等、書籍刊行のために調査が必要な資料を優先的に調査することにした。また、並行して撮影した資料の分析や翻刻なども行った。これらの成果をもとに2022年度に交付される研究成果公開促進費(学術図書)の公募に申請したところ採用が決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の主な成果は、2017年より継続して調査を行っている異本系『常盤問答』に関するこれまでの調査の成果を、2021年5月の芸能史研究会例会にて発表したことである。異本系〈常盤問答〉とは、幸若舞曲の一演目である『常盤問答』と基本的構成を同じくしながら、登場人物である常盤と東光阿闍梨が交わす問答の数が多く、特異な内容を有する写本群のことである。西日本を中心に流布しており、現在6点の伝本が確認されているが、芸能史研究会での報告後、さらに個人蔵の1点があることがわかり、所蔵者の許可を得て撮影することができた。芸能史研究会での発表においては、異本系写本群、寛永頃の古浄瑠璃を集成したテキストとされる学習院大学蔵『常盤物語』、近年進出した個人蔵『ときわ物語』の3つの系統の本文を比較検討し、表現に違いはあるものの、個人蔵『ときわ物語』を仲立ちとして、三つの系統の本文の一部に、類似する箇所がみられることを報告した。なお研究発表の内容については、要旨を『芸能史研究』235号(2021年10月)にて報告している。また上記の発表を論文化した上で、2022年度に研究成果公開促進費(学術図書)の交付を受けて刊行する書籍に所収予定である。 異本系『常盤問答』については、上記のかたちで報告をまとめる目途が立ったが、研究計画の(4)にかかる、判官物の絵画作品については、海外に所蔵される資料が比較的多いため、ほとんど調査を実施できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの状況を考え、当面は国内の公的機関を中心に資料調査の計画を立てる。 まずは書籍刊行のために調査が必要な堺市博物館、西尾市岩瀬文庫、宮崎県文書センターへの出張を計画している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの流行により、旅費を使用しての国内外における資料調査が不可能となったため。今年度は、感染状況をみつつ、実施可能な国内の調査を遂行したい。
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Remarks |
「国文研千年の旅 富樫」読売新聞多摩版2021年4月21日
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