2021 Fiscal Year Research-status Report
近世イングランド演劇の上演史における「男性美」観の変遷
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19K13117
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Research Institution | Musashi University |
Principal Investigator |
北村 紗衣 武蔵大学, 人文学部, 准教授 (00733825)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シェイクスピア / ジェンダー / セクシュアリティ / 美 / 舞台芸術史 / 上演史 / 受容史 / リチャード二世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ウィリアム・シェイクスピアの作品をはじめとする近世イングランド演劇の上演史において、男性登場人物の性的魅力や美に関する考え方はどのように変化してきたのかという問いを探求するものである。 2021年度は2020年の研究成果を論文化する予定であった。予定通り調査結果を論文にまとめ、2022年3月末に刊行された日本シェイクスピア協会の学会誌である『Shakespeare Journal』8(2022)に査読論文「「美しい」王をどう表現するか?――『リチャード二世』の演出と受容」(pp. 57-68)が掲載された。これは2010年代のイギリスと日本におけるシェイクスピア史劇『リチャード二世』の上演について、男性美の表現をテーマに分析したものである。リチャード二世は歴史書においてもシェイクスピア劇のテクストにおいても美男の王だったとされている。2010年代にはこのような台本の記述を受けてリチャードの男性としての美貌を強調するような演出のプロダクションが増えたため、そうした演出のトレンドを中心に分析を行った。 また、この研究の成果の一部はアウトリーチのような形で、筑摩書房から2021年9月に刊行した新書『批評の教室』の一部に盛り込まれている。本書は高校生・大学生向けに批評のやり方を解説した教科書的な本である。この本の中では、キャラクターの美しさや魅力をとらえようとする際には偏りが生じやすく、批評をする際にはそうした見方の偏りに注意をして慎重に分析を進めなければならないということを、研究成果をまじえて簡単に解説した。 さらに、演技論の研究の一部として2021年4月14日にアメリカルネサンス学会が主催するRSA Virtual 2021にて、"How Did the First Female Public Speakers Make Themselves Heard? Actresses and Religious Preachers"という発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度である2019年度においては、計画書の課題1~4の全てを並行して少しずつ進め、課題の1から3までについては、完遂はできなかったものの成果があった。2020年度及び2021年度は主に研究計画に記載した課題4「映画やテレビが登場して以降の時代を対象とし、男性の美や性的魅力に関する受容がどのように変化したのかを明確にする」に取り組んだ。これに関しては2021年度に研究成果として上記の論文を刊行し、アウトリーチにも取り組んだ。また、課題3の演技論についても研究を進め、その一部についてアメリカルネサンス学会で上記の発表を行った。 一方、研究課題に関する分析を進めるため、2020-2021年度は舞台芸術映像アーカイヴなどでの資料調査を行う予定であった。しかしながら新型コロナウイルス感染症の流行のため、2020年度に引き続き海外などに出張する調査ができず、研究の進展が遅くなった。こうした海外調査ができない分については日本・英語圏両方で盛んに行われるようになっているオンライン上演配信の鑑賞などを活用して、適宜補って研究を続けている。このため、課題4については予想以上に研究は進んでいるものの、それ以外の研究についてはやや遅れ気味である。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度も2020年度及び2021年度に引き続き、新型コロナウイルスの流行による海外渡航の停止や海外からの郵便物の遅着に影響を受けざるを得ないため、研究については予定通りに進まないことを懸念している。アーカイヴ資料の利用が引き続き困難であり、論文の投稿などが遅れると考えられる。 新型コロナウイルス流行の状況は予断を許さないものであるため、2020年度及び2021年度同様、2022年度は無料及び有料のシェイクスピア上演オンライン配信などを利用して研究を続ける予定である。また、国際学会などはアメリカルネサンス学会をはじめとしてヴァーチャル開催になったものも存在するため、できるかぎりそうした研究会で発表を行い、他の研究者からのコメントを受けて今度の研究に生かす予定である。 しかしながら、新型コロナウイルスの感染状況が改善し、長期にわたる海外滞在などが可能となれば、2022年末から2023年初め頃にかけて海外出張を行い、国際学会での研究発表や資料調査などを実施したいと考えている。
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Research Products
(3 results)