2022 Fiscal Year Research-status Report
A Study on Topicalization: toward the Interface between Generative Grammar and Traditional Japanese Linguistics
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19K13158
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Research Institution | Kyoto Notre Dame University |
Principal Investigator |
田口 茂樹 京都ノートルダム女子大学, 国際言語文化学部, 教授 (00528664)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | カートグラフィー理論 / that痕跡効果 / 主題化 / 意味役割 / 格 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本語の「主題化」の性質を解明することにより、Rizzi、Belleti、Cinque等、ヨーロッパにおける研究者が提唱する談話上・情報上の階層構造の精緻化を進めてきた。昨年度に引き続き、多言語を通時的かつ共時的に考察する必要がある、という想定の下に研究を継続したが、2022年度からの新たな展開としては、解釈の二重性を担保するための格や意味役割の認可、及びそれに必要とされるA移動に関する諸制約の抽出と定式化を一層推し進めた点である。英語におけるthat痕跡効果や主題化を手がかりに、補文標識句が持つ談話特性とA移動がどのような相関関係を持つのかを調査・分析して論文にまとめた。この論文では、談話特性を具現するための移動操作が非循環的に適用し、格や意味役割といったA移動に関わる操作は、論理形式部門で非顕在的に適用する、という分析を提案した。これは、経験的にも理論的にも妥当かつ斬新なものであると考えられる。現在、コロナウイルス感染症による渡航制限が緩和されつつあることを踏まえ、研究成果を本格的に世界へ向けて発信していくことを目指している。2022年度に引き続き国内の専門家による協力・支援を最大限に活かし、まずは国内での研究成果発表によって研究の基盤固めを行う。前述の紀要論文に加筆・修正を行い、英語論文として電子媒体で公開できるよう、国際ジャーナルへの投稿準備を進めている。カートグラフィー理論を基にした研究が成熟を迎えてきた昨今、日本語のように話者の心的態度が終助詞として具現される言語の研究は極めて重要かつ興味深いテーマであると言える。伝統的な国語学・日本語学における優れた知見は日本国内でしか認知されていないが、これらを言語学界全体に周知することで、申請者を含め世界中の研究者がそれらを応用した研究を推進することに寄与できると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度から今年度にかけて、カートグラフィー理論の成熟によって様々な研究成果が発表されたが、それらを入手してデータの収集及び批判的な考察ができたことは、世界レベルでの研究動向を把握する上で非常に有益であった。コロナウイルス感染症の影響で国際的な研究発表はできなかったものの、本研究を2本の紀要論文として発表できた点、また、これに関連した研究を学生との連名で日本言語学会に応募し、採択された点等を考慮すると、ある程度の成果が出せたものと認識している。特に上述の紀要論文では、A移動がカートグラフィー理論で持つ役割に着目し、解釈の二重性を担保するための意味役割付与と談話特性の獲得について深い議論を行うことができた。この分析は独自の着眼点に基づいており、妥当性の立証が実現すれば、カートグラフィー理論全体に対して大いに貢献することが期待される。上述の通り、現時点での研究成果を精査し、英語論文として電子媒体で公開できるよう、国際ジャーナルへの投稿準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
多言語を通時的・共時的に考察する必要がある、という課題は昨年度から継続して重視しており、これを追究するために、多言語研究に適した機関で最先端のカートグラフィー理論や生成統語論、及び双方の研究成果や知見にリアルタイムで触れ、そこに所属する研究者たちとの共同研究を一定期間行うことを目指している。さらには、談話特性の習得と言語の発達について研究を深め、発達障害を持つヒトのデータを分析してコミュニケーションの円滑化に寄与できる研究を行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
参加を予定していた学会が、新型コロナウイルス感染予防対策のためオンライン開催となり、旅費の支出が一切無かったため、次年度使用額が生じた。情報の収集・発信の観点から、大きく分けて以下二点に関する費用が生じるものと考えられる。一つ目としては、最先端のカートグラフィー理論や生成統語論、及び双方の研究成果や知見に基づく論考は今後も活発に発表されることが期待され、それらを入手してデータの収集及び批判的な考察を行うことは、本研究を完結させるために必要不可欠である。二つ目としては、情報分野の著しい成長・発展により、PCやソフトウェアを初めとする入力・出力用ツールのアップデートが不可避である。また、膨大な資料を安全に保管するための外部記憶装置や、それらの電子化、編集等を行うためのハードウェアやソフトウェアが必要となる。
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Research Products
(3 results)