2019 Fiscal Year Research-status Report
格の省略がもたらす意味解釈への効果に関する理論研究
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19K13188
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Research Institution | Kyoto Notre Dame University |
Principal Investigator |
杉村 美奈 京都ノートルダム女子大学, 国際言語文化学部, 准教授 (20707286)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 格の省略 / 作用域 / 複雑述語形成 / 主要部移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は格の有無がもたらす意味解釈への効果及びその要因を探ることにより、格の文法的役割を明らかにすることを目的とし、同時に、格の付与に密接に関連する複雑述語形成の仕組みを捉え直すことを研究課題としている。 今年度は、格の省略によって生じる目的語と複雑述語との間の作用域関係の現象記述研究を行った。具体的には、可能接辞「られ」と、とり立て詞「だけ」を伴う目的語の作用域 (Sano 1985, Koizumi 1994, Tada 1992, Takano 2003他) 及び否定辞「ない」を含む複雑述語と目的語との間の作用域関係に格の有無がどう影響するのかを、先行研究の観察(Shibata 2015)を基に考察した。結果として、「られ」と「だけ」との間の作用域関係は格の省略により、目的語が「られ」よりも低い作用域、高い作用域のどちらもとることが可能なのに対し、目的語と「ない」との作用域に関してはそのような曖昧性は生じず、否定辞よりも必ず高い作用域をとることが観察された。この事実に基づき、格が省略された目的語の認可には主要部移動を伴う複雑述語形成が必要であること、また、否定辞を伴う場合にはそのような主要部移動が不可能となることを提案し、その結果、目的語の統語位置に変化が生じ、作用域の違いに結びつくとの考察に至った。また、その研究成果を2月に開催された学会で発表し、Proceedingsに投稿した。 また、本研究の目的の1つである複雑述語形成の仕組みを明らかにするため、移動動詞を伴う複雑述語にも注目し、日本語では、宮本陽一氏(大阪大学)との共同研究において、移動動詞と格の認可についての言語事実の整理を、英語では小畑美貴氏(法政大学)との共同研究にて、屈折接辞と複雑述語形成との関係についての現象記述研究を行った。 来年度は上記全ての成果を踏まえ各言語事実に対する理論構築を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、格の省略がもたらす目的語と複雑述語との間の作用域関係を詳細に記述することが研究実施計画であった。研究実績の概要に示す通り、今年度の研究成果として格の省略は作用域に影響をもたらすこと、また、作用域には複雑述語形成の過程が関与する可能性を示唆する現象記述が行えたことから、今年度の研究課題はほぼ予定通り遂行されていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は2019年度に新たに明らかになった言語事実をふまえ、格付与および複雑述語形成の理論構築を行う予定である。今年度の研究成果として、主要部移動による複雑述語形成が格省略を伴う目的語の認可に関与することを考察した。しかし、それが何故なのかといった説明には至っていないため、2020年度はこの点に関する理論の精密化を図る。同時に、今年度現象記述を行った移動動詞を伴う複雑述語形成と格付与との関係性に関する日英語比較研究についても2020年度の研究課題とし、言語事実に対する理論構築を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
2019年度の研究発表および学会・研究会等への参加が国内のみであったことに伴い、当初予定していた旅費を下回る予算執行となった。残額は2020年度に購入する予定のノートパソコンの予算の一部として使用する予定である。
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Remarks |
【研究発表】杉村美奈・小畑美貴. 2020. {H,H}のラベル付与を取り巻く諸問題:さまざまなタイプの複合語からの一考察. 北海道大学メディアコミュニケーション研究院 言語学ワークショップ.
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