2022 Fiscal Year Research-status Report
メンタル・スペース理論による日常言語に潜む提喩性の解明
Project/Area Number |
19K13205
|
Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
大田垣 仁 近畿大学, 文芸学部, 准教授 (60732360)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 提喩性 / 種による提喩 / スケール / ブレンディング理論 / 概念統合理論 / メンタル・スペース理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、提喩と換喩の連続性を明らかにするために、特に種による提喩に注目した。そこでは、メンタル・スペース理論に基づく、外延的なアプローチ(大田垣 仁(2022):「提喩性について-語用論的コネクターから提喩をみる-」『語文』(第116・117輯)で定式化)では、「提喩性」の正体を記述しきれないことが判明した。
このアプローチによって、提喩を構成するカテゴリー関係についても、トリガー(実際の言語形式)とターゲット(指示対象や意味として話し手が意図しているもの)があり、これらの間に語用論的コネクターが生じることを発見した。これにより、隠喩や換喩と提喩との連続性と相違をカテゴリー配置の点で明示できたが、さらに提喩の語用論的コネクターそのものがどのような認知操作(認知的アルゴリズム)を持つものであるかはブラックボックスのままであった。
したがって、2022年度は、提喩の認知操作を究明するために、関連研究の洗い直しを行った。つまり、認知意味論からのアプローチとしてWilliam Croftによるドメイン・ハイライティングの観点、関連性理論からのアプローチとしてRobyn Carstonによるアドホック概念構築の観点をみいだし、これらを批判的に検討することで、提喩性の正体が認知的なバイアスがかかったスケール操作にあるのではないか、ということにたどり着いた。この発見については、2022年度末に開催された金水研(放送大学)・岡﨑研(立命館大学)が主催した共同研究会で発表を行ったが。ここでは、スケール概念と、メンタル・スペース理論の主要概念のひとつであるブレンディング理論(概念統合理論)を用いて、種による提喩の発生条件について検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、提喩現象について次の5つの課題を設定している。(1)カテゴリーの飛躍および、差異的特徴と提喩性。(2)「N1のN2」型名詞句における、提喩と隠喩との相違。(3)集合関係を超えて生じる提喩的認識。(4)キャラクター概念を生じさせる動機付けとしての提喩。(5)換喩と提喩の間にある断続と連続。これらのうち、2019から2020年度は、(2)についての記述と類型化、メンタル・スペース理論による定式化をおこなった。そして、2021年度は(3)(5)について検討し、論文化を行った。 一方、2022年度は自分でも驚くほど、日常に研究時間を割り当てられなかった。対面授業の本格的復活に並行して残るオンライン授業の準備、学会運営、家族の新型コロナウィルス罹患にともなうほぼ1ヶ月のワンオペ看病、その他非公開の業務が継続的かつ重奏的に可処分時間に居座ったため、純粋に研究にあてられる時間を見つけることが困難になった(これは、院生時代には想像も経験もしなかった複雑性である)。隙間時間をみつけては、データ収集、先行研究の通読、断片的な原稿の執筆にあてた。その中で、メインで取り扱うトピック以外にも、複数の論文の種を見つけることができたが、それらを完成させるまでには至っていない。メインのトピックであった種による提喩やスケール概念と提喩のかかわりについての思索は、その分析の枠組みについて、大きな不足点を年度末の研究会でフロアから指摘され、目下この部分の理解のために関連する研究を読み込む作業に着手している。これらの状況をうけ、2022年度は本研究プロジェクトの最終年度ではあったが、研究期間をもう1年延長し、スケール概念にかかわる提喩性の認知的アルゴリズムの解明を、本務校にある大型マンガ図書館のマンガを用いた記述をデータ源とすることで完成させたいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記の理由により、研究期間をもう1年延長した。残りの時間と研究費を使って、以下の手順で残りの研究を完成させたいと考えている。
(1)提喩性の正体探しについて、外延的アプローチをこえた認知的アルゴリズム部分でのパターンの解明を目指す。 (2)そのために必要な、分析データをマンガのセリフから収集する。これによりキャラクター概念を生じさせる動機付けとしての提喩についても並行して浮き彫りにできると考える。
認知的アルゴリズムレベルでの提喩性の解明には、認知意味論の知見だけでは不十分で、形式意味論におけるスケール演算操作の理解が必須である。この観点は既に大きなトピックとして研究の蓄積があるので、過去の議論を追いつつ、提喩アルゴリズムの解明に生かせそうな部分を探索・抽出する。また、ここまでの作業過程で、名詞句単位のみで提喩の背景にあるメカニズムを考えることは不完全で、命題間の論理関係のなかで名詞や文間に生じる提喩性を考えなければいけないことが見えつつあるので、提喩性の基礎づけを単なる図式化に陥らせず、予測可能な形で提喩の生成を規定できる、論理演算レベルでのテストフレームの究明を行いたい。そのためには、種による提喩について、言語直感を出発点としつつも、未知の類型を発見するためのデータの収集が必要である。これは、コーパスでの探索が困難であると想像できるため、手作業での記述に重点を置き、本務校の大型マンガ図書館に配架されたマンガ群を調査対象とすることで、種による提喩が発現しやすいジャンルや、文脈・状況を発見したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
2022年度は研究が進んでいるにもかかわらず、最終的な形にはできないという、これまでに経験したことのない、不思議な年度だった。その大きな要因は、公私ともに研究外のさまざまな(業務)負担が複数のしかかってきたことにある。研究外業務に忙殺されたために、計画的に科研費を消費することができなかった。また、その中で、次年度延長を年度中期の段階から意識するようになったため、研究費消費控えも生じた。 この状況に対し,2023年度は、いよいよ最終研究年度になるので、残りの研究費を用いて、これまで買い控えていた海外の研究書を中心に、提喩研究、換喩研究にかかわるものを買いそろえていくことで計画的に研究費を使用してきたい。
|
Research Products
(1 results)