2019 Fiscal Year Research-status Report
漢語連濁の新視点:史的研究から見えてくる音韻と語彙の境界
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19K13207
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Research Institution | International Pacific University |
Principal Investigator |
呂 建輝 環太平洋大学, 経営学部, 講師 (20803737)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 連濁 / 漢語 / 史的変遷 / 接尾辞 / 語種 / 語の並置 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本語における連濁という音韻現象の法則性をある程度明らかにすることである。連濁とは、「た(田)→やまだ(山田)」のように、ある語が他の語の後部に付くとき、もともとの清音(た)が濁音(だ)になる現象のことである。連濁は一般的に、和語(日本で古くから使われている大和言葉)に起こりやすいと考えられている。しかし、漢語(昔の中国に由来する、または機能的にそれに準ずる言葉)にも連濁が起こることがある。 本研究では、漢語「~本(ほん・ぼん)」「~山(さん・ざん)」の語彙を対象に、先行研究を踏まえながら、連濁の法則性を考察する。考察方法として、これまでは主に現代語のみを対象とする共時的研究が行われてきているが、本研究では、通時的研究の手法も用いる。連濁という音韻現象は歴史上において、どのように変遷してきたのかを明らかにする。これによって、なぜ現代で違う漢語によって連濁する法則も異なっているかも明白になる。さらに、漢語の連濁に見られる法則性をヒントに、和語の連濁とはどのように関係しているかを考える。連濁問題を全体から再検討し、本研究の帰結点とする。 2019年度の研究においては、まず「~山」の語彙の収集作業、用例を文献で確認する作業、データの整理および分析作業に取り組んでいた。結果として、計100以上の文献より、1000近くの用例が集められ、研究を順調に進めることができた。それを内容とする学会発表(第124回国語語彙史研究会)が決まった。「~本」の連濁に関する研究は既に論文にまとめられており、2020年度中に学会誌に投稿しようと考えている。他方、漢語の連濁に見られる法則性は和語にもみられるかどうかの考察も行った。それを内容とする論文を投稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、当初の予定として、①2019年度中に「~本」の連濁の史的変遷を考察し、論文にまとめる ②2019年度中に「~山」の連濁の史的変遷について調査し考察する ③2020年度中に「~山」の連濁について学会発表をし、論文にまとめる ④2021年度中に著書の執筆に着手する としていた。 ①について、「~本」の連濁の史的変遷を考察し、2019年度中に論文にまとめることができた。学術誌への投稿は間に合わなかったが、2020年度中に投稿しようと考えている。②について、「~山」の語彙の収集作業、用例の確認作業、データの整理および分析作業は2019年度中に全て完了した。主に山名に使われる「~山」の語彙は数が膨大であるため、予想以上に時間がかかったが、計100以上の文献より1000近くの用例を集めることができ、研究を順調に進めることができた。③「~山」の連濁の史的変遷について、2020年4月に第124回国語語彙史研究会での口頭発表「「~山」の連濁の史的変遷―山名を中心に―」が決まったが、新型コロナウイルスにより、9月に延期された。④2021年度中の著書執筆に先立ち、連濁という音韻現象を全体から見直す必要があることに気づいた。前述①~③のように、「~本」の連濁の考察も「~山」の連濁の考察も、2019年度でほとんど完了している。そこから見出した漢語の連濁の法則性は和語には見られないか。漢語の連濁は連濁全体においてどのように位置付ければよいか。これらの問題について考察し、論文「連濁しない和語の一側面」を投稿した(『環太平洋大学研究紀要』16号)。 以上から、新型コロナウイルスの影響で学会発表が延期になったこともあるが、研究自体はほぼ当初の予定通りに進んでいると言ってもよいと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度中には、まず決定となっている第124回国語語彙史研究会で研究発表「「~山」の連濁の史的変遷 ―山名を中心に―」をする。そこで専門家から意見を伺い、内容に加筆・修正をし、2020年度中に論文にまとめる。ただ、新型コロナウイルスで第124回国語語彙史研究会が4月から9月に延期されたことにより、論文の投稿は2021年度にずれ込む可能性が高い。学会発表が終わり次第、すぐに論文の作成に取り掛かり、できるだけ早い時期の完成を目指そうと考えている。2020年度中には無理でも、2021年度の早い時期にはすぐに投稿できるような完全原稿に仕上げる。 また、「~本」の連濁の史的変遷に関する論文の原稿は、既に2019年度中に完成しているため、2020年度中に国語語彙史研究会の学術誌『国語語彙史の研究』40号に投稿しようと考えている。 2021年度に執筆する予定の著書では、まず連濁という問題を概観し、特に漢語の連濁についての先行研究を取り上げながら記述し、これまで未だに解明されていない問題点を提示する。次に、「~産(さん)」「~勢(せい)」「~本(ほん)」「~山(さん)」の連濁の史的変遷を考察する。それぞれの語彙の連濁に見られる共通点と相違点を分析し、漢語が連濁する事象の本質を考える。さらに、和語の中にも漢語とよく似たような現象が見られるかどうかを考察し、和語の連濁と漢語の連濁の接点を考える。最後に、視野を連濁問題全体に移し、これまで音韻現象の一つとして考えられてきた連濁の問題は、現代日本語の語彙システムにどのような影響をもたらしているのかを明らかにし、本書の結論とする。
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Causes of Carryover |
初年度用の研究図書は、たまたま状態の良い中古本を見付けたため、最初の計画より安価で購入することができた。使用額は予定より少なかったとはいえ、2019年度の研究を遂行するための最も基本的な図書はほとんど揃ったといえる。 2020年度には、値段が高めのシリーズ本や、最新研究が集まった論文集、資料の購入を考えている。そのため、2019年度で余った経費を2020年度予算に充て、研究の遂行に必要不可欠、かつやや高価な研究書を手に入れたい。
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