2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K13324
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 将文 北海道大学, 文学研究院, 専門研究員 (60791126)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 北海道 / 農業移民政策 / 酪農 / 地力 / 技師 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和元年度前期は、戦中期における満洲移民の北海道への送出が限定的であった点に着目し、戦中期北海道における満洲移民政策の停滞という視角から、北海道それ自体の移住地としての役割を明らかにすることを計画し、『北海タイムス』、『小樽新聞』(以上、北海道大学附属図書館所蔵)、『旭川新聞』(旭川市中央図書館所蔵)等の新聞史料、『北海道農会報』等の雑誌史料、京都大学農学部図書室所蔵の旧植民地関係文献に収録されている諸史料の調査・蒐集を進めた。結果、北海道それ自体の移住地的価値を明らかにするためには「満洲国」に導入された農業移民政策構想が、明治以降の北海道において形成・展開されていく過程を明らかにすべきと考えるに至った。こうした視角から申請者は、大正後期の北海道において、移民を定着させる手段として酪農政策が確立されていく過程を研究し、その政策が、戦中期において「満洲国」に導入されたものと同質であることを確認した。その際、前述の諸史料と併せて、北海道大学附属図書館に所蔵されている諸史料(北海道庁および北海道産牛馬畜産組合関係の一次史料ならびに『畜産雑誌』、『畜牛』、『農友』等の雑誌史料)とともに「宮尾舜治関係資料」(札幌市立図書館所蔵)、「橋本東三関係資料」(北海道立図書館所蔵)、『函館新聞』、『渡島新報』(以上、函館市中央図書館所蔵)を調査・蒐集した。その成果については、令和2年度に農業史学会において研究報告(論題「戦前期北海道における酪農構想の確立」)を行うとともに、この報告内容に基づいた論文を『農業史学会』に投稿する予定である。さらに、令和元年11月には、平成30年度以来進めていた北海道出身官吏・農家の満州移民政策への関与を明らかにした論文「戦中期「満洲国」における北海道庁出身官吏と北海道出身酪農家」が『北大史学』第59号に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、北海道それ自体の移住地としての役割を明らかにするために、戦中期北海道における北海道移民政策と満洲移民政策の競合関係を抽出しようとしていた。しかし、研究の進展に伴い、北海道の移住地の役割を明らかにするためには、明治期以来北海道それ自体において形成・展開された移民政策を考察する必要があると考えるに至った。こうした視角に立って、令和元年度中に、大正後期の北海道における酪農政策の確立過程を明らかにし、次年度中にその成果を報告する準備を整えた。当初予定していたアプローチとは異なるが、近現代北海道の北海道の移住地価値の一端を明らかにするこための準備が整った。尚、史料調査を推進していくにあたり「満洲国」における農業移民の経営技術が戦後北海道にもたらした影響について論じ、一つの論文とする準備を整え、来年度の研究計画を進めていく上での準備を進めた。当初、この研究は令和3年度に北海道の拓殖経験の「満洲国」への影響と合わせて論じ、一つの論文とする計画であった。しかし、史料調査を進めていくにあたり、戦後北海道開発下の史料は北海道立図書館等に所蔵されている行政資料、各地方の図書館に所蔵されている新聞史料が豊富に残されいることを踏まえ、一つの独立した論文にすべきと考え、来年度の課題とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、戦後緊急開拓の推進およびその後の北海道開発の策定・実践課程から、戦前~戦中~戦後と連なる日本の農業移民政策の連続性について明らかにし、一つの論文としたいと考えている(論文「戦中期「満洲国」における北海道庁出身官吏と北海道出身酪農家」の続編となるもの)。戦後緊急開拓の推進に関与していた者の中には「満洲国」において農業移民政策に関与していた官吏や農家を含んでおり、中には黒沢酉蔵ような戦前期北海道の拓殖政策と戦中期「満洲国」の農業移民政策の双方に関与していた人物も含まれていた。つまり、戦後緊急開拓および北海道開発の推進過程を明らかにすることは、戦前~戦後の日本の農業移民政策の連続性を抽出するうえで、重要な作業であると考える。本研究を推進していくに当たり、北海道立図書館ないし北海道大学北方資料室所蔵の緊急開拓関係資料を利用すると同時に『函館新聞』、『八雲新報』、『八雲新聞』などの北海道各地の地方新聞を調査する。合わせて、北海道開発計画の推進過程を明らかにしていくため、同計画の策定・推進を担った北海道開発局の史料を調査すると同時に『岩見沢新聞』、『十勝日日新聞』といった各地方に所蔵されている地方紙を調査する。尚、研究の進捗状況によっては、戦後緊急開拓時代とその後の北海道開発時代の二期に分けて、二つの論文とする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた第一の理由は、昨年に引き続き、全道各地の図書館を対象とした史料調査が必要となるためである。尚、次年度以降の研究対象となる時代がより新しくなり、各地方の史料が一層充実しているため、令和元年度以上に頻繁な調査活動が必要となる。具体的な計画としては、函館市中央図書館、八雲町立図書館、室蘭市立図書館、岩見沢市立図書館、旭川市中央図書館、帯広市図書館、北見市立図書館、北海道内各地への史料蒐集を目的とした出張を企画している。各図書館の史料状況によっては、複数回出張しなくてはいけない場合や、中長期滞在する必要が生じる場合も考えられる。第二の理由としては、令和2年度の7月に京都大学において開催される日本農業史学会2020年研究報告会における研究報告(論題「戦前期北海道における酪農構想の確立」)を予定しているため、その際の出張費が必要となることが挙げられる。このほか、研究の進捗状況によっては、たの道内外の他の図書館ないし資料館を調査する必要が生じる場合も考えられる。
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Research Products
(1 results)