2021 Fiscal Year Research-status Report
戦犯釈放の政治外交過程―国内の戦犯釈放運動と再軍備問題との連関に注目して
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19K13337
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中立 悠紀 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究者 (60829787)
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Project Period (FY) |
2021-03-01 – 2024-03-31
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Keywords | 戦犯 / 戦犯釈放運動 / 戦争受刑者世話会 / アメリカ政府 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度に重点的に行ったのは、収集済みであった米国外交史料と、日本側の史料の突合せを通じて、日本側の戦犯釈放運動や工作が、いかに米国の戦犯政策に影響を与えていたかの解明である。一九五三年に日本弁護士連合会・戦争受刑者世話会などは、山下春江と有田八郎を戦犯釈放交渉の使節として米国などに派遣することを決定した。山下と有田は、ワシントンの米国務省でロバートソン国務次官補と会見した際に、日本の左翼がこの問題をプロパガンダとして利用し、日米を離間しようと企てていると訴えた。これに対して、米陸軍でもコミュニストが戦犯釈放問題を利用して反米主義や日本政府への攻撃に利用しているという認識があり、日本政府と日本国民の要望に応えることで日米関係を改善するという意図を持っていた。日本と米国で、共鳴する政策志向性が存在していたのである。 また本年度の研究で判明したのは、日本政府や戦犯釈放運動勢力が東京での交渉窓口としていた米国大使の役割である。一九五三年八月、米大使館のジョン・アリソン(John M.Allison)大使は、米国務長官に対し、戦犯問題は日米両国にとって不満の元となっており、大統領の最終決定権を三人委員会に移譲するなどして仮釈放の迅速化をはかることを具申している。その後一九五四年七月に、米国政府は戦犯釈放を促進するための新ルールとして、十年服役した戦犯に仮釈放審査を受ける権利を与えるという措置を決定した。さらに一九五五年二月に、アリソンは国務長官に対して、1衆議院選挙で日本の保守の支援、2日本国民から感謝を得るため、3他の日米間の交渉事項に良い影響を与えるためにも、早期の新措置の発表を求めた。その後四月、戦犯の仮釈放を迅速化し、一九五六年初めまでに解決することを目標にし、五月一七日にアイゼンハウアー米大統領は、審査迅速化のための新措置をとったのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
米国政府内の政策決定過程が今現在も不明瞭であり、本来ならば米国に渡航して史料調査を行うべきであるが、新型コロナウィルスの影響もあって、調査が行えていない状況にある。ただし、日本側の史料の読み込みは相当に行えた。 二〇二二年度は、上記の研究実績の深ぼりを収集済みの英国史料を用いて行い、また、戦犯釈放交渉とMSA協定の関係について分析を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
二〇二一年度は米国や関係国の史料調査ができないため、収集済みの海外史料の分析に加え、さらなる日本側の史料調査を行った。 二〇二二年度の研究内容は、主に以下の二点とする。 1、日本政府の外交交渉や戦犯釈放運動勢力の工作が、いかに米国・英国の戦犯政策に影響を与えていたのか、両国政府の政策決定過程に着目して分析する。収集済みの両国政府の史料に加え、可能ならば両国の国立公文書館の遠隔複写サービスを用いて、さらなる史料調査を行う。また、日本側の工作意図を分析するために、関係国への陳情活動や釈放運動を行っていた地方自治体の史料を調査する。 2、MSA協定と戦犯釈放問題の関連性について。戦犯釈放運動勢力は、一九五三年十は会談で戦犯問題解決を訴えている(池田は会談前に世話会理事に就任している)。また国内ではMSA協定に戦犯の釈放規定を加えるように重光葵(世話会理事)率いる改進党が日本政府・自由党側に訴えていたことも申請者の調査で分かっている。日本の再軍備(MSA協定)と戦犯の釈放に如何なる関連性があったのかを解明する。そのために外交史料館の外交史料や、海外史料の分析を深める。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は 2336円であり、概ね適切に処理できていると考える。次年度は旅費に充てる予定である。
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