2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K13352
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
細谷 亨 立命館大学, 経済学部, 准教授 (40762068)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 満洲移民 / 引揚者 / 家族経営 / 生活保護 / 戦後開拓 / 農地改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、満洲移民(満蒙開拓団)を送り出した地域・母村が、敗戦後、引揚者をどのように迎え入れたのか、また、引揚者がどのような援護を受け、「戦後」を生きていったのかを明らかにすることである。対象地域としては、これまでの自身の研究において中心的な位置を占めていた長野県や山形県以外の府県を設定している。 2020年度は、2019年度に実施した徳島県名西郡神山町での調査(鬼籠野小学校に保存されている旧役場文書調査)の成果をもとに、引揚者の存在形態と生活再建過程の分析を進めた。分析からは、1950年代前半までに地域において生活再建を図る引揚者の多くが貧困状態から脱していたこと、地域における共同体的諸関係や兼業・多就業的な家族経営によって生活再建が図られたこと、引揚者の生存を維持する手段として生活保護・戦後開拓・農地改革など戦後改革期の諸政策が重なり合いながら選択されていた事実が明らかになった。こうした引揚者の姿は、先行研究で指摘されてきたような都市部における貧困層の形成、炭鉱への流入、開拓農民としての村外への送出など、村落社会からの「排除」の局面のみでは把握し難い引揚者の生存のあり方を表している。敗戦直後だけでなく、1950年代までを視野に入れた引揚者の存在形態が浮かび上がってきたことは、今後の「引揚げ」研究だけでなく、戦後日本社会研究にとっても重要な意味をもつと考えている。以上の研究成果は、年度内に学会報告を通じて公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実地調査については、新型コロナウイルスの感染拡大により断念せざるを得なかったが、可能な範囲で文献収集を行ったほか、これまでの調査の成果をふまえて分析を進めることができた。分析からは、1950年代前半までに地域において生活再建を図る引揚者の多くが貧困状態から脱していたこと、地域における共同体的諸関係や兼業・多就業的な家族経営によって生活再建が図られたこと、引揚者の生存を維持する手段として生活保護・戦後開拓・農地改革など戦後改革期の諸政策が重なり合いながら選択されていた事実が明らかになった。上記の事実は、従来の研究史が想定してきた貧困層としての引揚者イメージを大きく修正するものといえよう。研究成果は、秋のオンラインでの学会報告(パネルディスカッション)を通じて公表し、フロア参加者との質疑も含めて議論を深めることができた。またそれに先立って、パネルディスカッションの共同報告者・コメンテーター・司会者とともに、学会報告準備会をオンラインで実施し、研究成果のブラッシュアップを図ることができたことも付記しておく。
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Strategy for Future Research Activity |
学会報告後は研究成果をさらにブラッシュアップし、論文として公表すべく努力している。パネル共同報告者との意見交換により、地域における引揚者の存在形態や農林業の特徴などの論点を含めて再度検討する必要性が確認できた。引揚者の生活再建の内実については、体験者へのヒアリングを含めて追加の実地調査も含めてより分析を深める必要がある。また、中国残留日本人・中国帰国者と地域社会との関係については、これまでの調査の一定程度の蓄積はあるものの、成果を発表できる段階にはない。文献収集やヒアリングなど追加の調査が不可欠である。新型コロナウイルスの感染拡大もあり、依然としてフィールドワークは困難な状況にあるが、見通しがつくようであれば検討したい。
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