2020 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の禁酒運動と教育・メディア―日本禁酒同盟資料館旧蔵史料を対象に
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19K13353
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
横山 尊 九州大学, 比較社会文化研究院, 特別研究者 (20712152)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 禁酒運動 / 日本国民禁酒同盟 / 教育 / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の本科研費による研究は、もっぱら『禁酒新聞』の目次データベースの作成に費やされた。創刊から敗戦後までの新聞の見出しを入力することによって、新聞紙面の全体的動向が明瞭となり、さらにヒストグラムによるキーワード分析なども可能になる。現在のところ、1926年から1940年までの内容が入力されている。予想よりは順調な進捗状況である。今年度は、データベースの作成にめどがつき、実際に研究発表や論文作成に役立つことが期待できる。 今年度は、コロナ・ウィルスの影響により、県外での調査はほぼ不可能であった。そのため、昨年度から収集した日本禁酒同盟資料館の旧蔵資料を読み進めることに研究の労力が費やされた。さらに、禁酒文化のあり方を精確に捉えるためには、飲酒文化のあり方も知る必要がある。そのため、関連する国内外の動向を示す研究文献の収集にも力を入れた。これらは、今後、禁酒運動について、研究発表や論文を執筆する際の基礎力となるはずである。 本科研費にまつわる執筆としては、2020年3月に発表した「福岡県の禁酒運動と宗像―福岡県禁酒聯盟結成まで」(『宗像市史研究』3号)をもとにした、「宗像地域の禁酒運動」『時間旅行ムナカタPlus』19号(2020年10月)を発表した。加えて、福岡県の禁酒運動の動向について、2020年7月に朝日新聞社の取材を受けた。その内容は、2020年8月4日の同紙の大分版などに掲載された。加えて、西日本文化協会から執筆依頼を受け、雑誌『西日本文化』に「山本作兵衛、ヤマの禁酒会に入る」という論説を書き、提出した。その内容は同誌の2021年夏号(499号)に掲載予定である。 加えて、禁酒運動はアルコール中毒の遺伝の観点から優生政策や厚生政策と関連深く、それについての依頼原稿も複数作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
端的に述べれば、進捗しなかった部分と、進捗が著しかった部分とに分かれる。 進捗しなかった部分は、今年度蔓延したコロナウィルスに伴い、2020年6月までは県内の文献収集すら、著しく阻害され、県外に至っては、全く調査を行うことができなかった。現在も、九州大学外の図書館は学外者の立入を禁じている箇所もあり、その点で大変な支障を被っている。さらに加えれば、学会や研究会も相当数が中止になったり、オンラインによる縮小が行われたので、その部分においても損害を被った。これは2020年特有の不可抗力と称さざるを得ない。 進捗が良好な部分もある。概要にも記した通り、『禁酒新聞』の目次データベースの作成を行っている。現在のところ、1926年から1940年までの内容が入力できている。予想よりは順調な進捗状況である。今年度は、データベースの作成にめどがつき、実際に研究発表や論文作成に役立つことが期待できる。さらに、一昨年度から収集した日本禁酒同盟資料館の旧蔵資料を読み進めることに研究の労力を費やした。禁酒文化のあり方を精確に捉えるためには、飲酒文化のあり方も知る必要がある。そのため、関連する国内外の動向を示す研究文献の収集にも力を入れた。これらの作業によってもたらされた知見も大きい。 禁酒運動は優生政策や厚生政策とも関連深い。そうした関連分野の知見も拡げ、諸種の依頼原稿も作成した。 総合的に評価すれば、おおむね順調に進展しているとして差し支えないと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、日本学生排酒聯盟の動向の研究を進める。『禁酒之日本』、『禁酒新聞』、さらに聯盟独自の会誌『無酒国』、さらに日本禁酒同盟資料館の旧蔵史料(2016年に武蔵野大学に移動)には、学生排酒聯盟を対象にした資料群もあり、それらから、活動の概要が解明できる。その際、結成の経緯の詳細、どの学校出身者が中心を占め、どのように周辺学校を活動に取り組んだか、それぞれの学校の排酒団体ではどのような活動が行われたかを明らかにしていく。その際、米国学生排酒聯盟(Intercollegiate Prohibition Association:IPA)など海外団体の影響や交流についても分析したい。関連して、日本国民禁酒同盟が刊行した『のぞみの友』を分析し、いかに同盟が児童を禁酒運動に包摂したかを考察する。加えて、婦人矯風会の少年禁酒軍の動向も解明したい。 第二に、1922年制定の未成年者飲酒禁止法、さらに改正をめぐる論議の分析も進めたい。複数の先行研究が存在するものの、日本国民禁酒同盟のメディアで議論された内容を充分に踏まえていない傾向がある。さらに、関連深い、日本学生排酒聯盟の中で同問題がどのように議論され、改正に関与したかも考察し、同法の研究の深化を図りたい。さらに、運用に関しても、台湾、朝鮮、樺太での同法施行に関する研究は未着手である。その施行は1937年になってからであった。それ以前から、台湾、朝鮮、樺太などの地域でも禁酒会が結成されており、1937年の同法施行前後は、日本国民禁酒同盟の啓蒙活動は活発化した。これらの議論の内容と意味を公文書も踏まえて考察し、内地と日本の飲酒・禁酒をめぐる法体系のあり方を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
今年度は、コロナウィルスの蔓延と、それに伴う各大学図書館などの対処によって、予定していた県外での調査に著しい支障が出た。学会報告もオンラインになったり、縮小された。次年度使用額が生じたのはそのためである。次年度は今年度は不可能になった調査や学会報告の旅費などに費やされる予定である。
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Research Products
(5 results)