2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K13355
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
平泉 紀房 金沢工業大学, 基礎教育部, 講師 (30747960)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 豊宮崎文庫 / 神宮文庫 / 出口延佳 / 伊勢神道 |
Outline of Annual Research Achievements |
豊宮崎文庫は慶安元年(1648)に伊勢外宮祀官の収容を企図して設立されたという。本研究ではその創建時における書籍収集活動に着目し、近世における伊勢神道興隆の淵源を探る事を目的としている。なお豊宮崎文庫は明治元年(1868)に廃止され、その蔵書は散逸したが、後に神苑会がこれを買い集め、その蔵書2万756冊を明治44年(1911)に神宮文庫に奉納している。 神宮文庫に納められた豊宮崎文庫蔵本の確認には『豊宮崎文庫書籍目録』を利用する方法があり、当目録は神宮文庫に2点納められている。またこれ以外に国立国会図書館・国立公文書館・国文学研究資料館などの主要な施設に納められているほか、玉川図書館・岩瀬文庫・本居宣長記念館にも保管されており、当該年度においてはこれら目録の類本調査を行なった。 その結果、残存する目録は3種類以上存在する事が明らかとなった。すでに確認したものには、まず4項目890点を記載する『勢州宮崎文庫書目』がある。これは文庫の「秘籍」ならびに「群籍」を主に記載しているが、奉納者の氏名を明記している点が特筆される。次に和書(86項目)・漢籍・外の3分類1773点を収めた『豊宮崎文庫目録』だが、これは非常に細かな項目立てが特色である。最後に『豊宮崎文庫書籍目録』は37項目2416点を収めており、蔵書が充実していく過程で、分類項目が整理されていた事が窺える。 なお『勢州宮崎文庫書目』に記載された奉納者について見ると、文庫創建に携わった外宮祠官は勿論、山田地域の御師の関与が顕著である。また林羅山をはじめとする儒学者や、紀州藩主・藩士など紀州藩の関与も注目される。その他、出版業を営んだ御師・藤原長兵衛をはじめ、京都・江戸・松坂の書肆による献本も多く見え、彼らとの関係性も無視できない。今後さらに検討を進め、豊宮崎文庫の書籍収集活動から、伊勢神道の展開を動的に把握することに努めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度に利用することを予定していた神宮文庫が、耐震工事のため2019年4月から2020年3月末日まで閉庫した事による。神宮文庫は一時散逸した豊宮崎文庫蔵本のうち2万745冊を納める本研究の要であり、閉庫を受けて計画変更を余儀なくされた。かかる事情から当該年度は他の施設に現存する『豊宮崎文庫書籍目録』とその類本調査を実施し、次年度以降の神宮文庫に於ける史料調査の前準備を行なう事とした。 日本古典籍総合データベース(http://base1.ac.jp)では『豊宮崎文庫書籍目録』に関連する史料は14件確認でき、そのうち国文学研究資料館・宮内庁書陵部・名古屋大学・鹿児島大学の蔵本はオンライン上での閲覧が可能であった。また『国書総目録』の記載も併せて確認し、国立公文書館・玉川図書館・岩瀬文庫・本居宣長記念館の蔵本を現地に赴いて確認した。 上記の調査の結果、豊宮崎文庫の蔵書目録には3種類以上が現存している事が判明した。そのうち最も古態を残すのが名古屋大学蔵本である。当目録は「秘籍」や「群籍」など4項目890点を記載しているが、各書籍の奉納者を明記している点が特筆される。次に岩瀬文庫蔵本は和書(86項目)・漢籍・外から成る1773点を記載しており、末尾に文政3年に追加された図書7点を備えている事から、それ以前の成立であることが知られる。また宮内庁書陵部蔵本は37項目2416点を記載しており、最も新しいもので安政年間(1854-59)の写本を備えている事から、その時分の成立であると考えられる。 『勢州宮崎文庫書目』に記された奉納者は、出口延佳をはじめとする外宮祀官のほか、三日市氏ら山田地域の有力な御師の関与が顕著である。また紀州藩儒の永田道慶・李全直や紀州藩士・佐々武明など紀州藩の関与や、藤原長兵衛(講古堂)など出版業者の献本も多く散見され、文庫草創期の活動に寄与したものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年4月より2020年3月末日まで耐震工事のために閉庫していた神宮文庫が、2020年4月より無事に開かれる運びとなった。これを受けて本研究では当初の予定通り、豊宮崎文庫の蔵本2万745冊を備える当文庫での史料調査を最優先で実施する。神宮文庫所蔵の豊宮崎文庫蔵本の確認は『神宮文庫和書総目録』と豊宮崎文庫の蔵書目録との照合から可能であり、特に名古屋大学蔵『勢州宮崎文庫目録』に記載される史料の調査を率先して行なう事とする。 なお当初の計画では豊宮崎文庫の蔵本を一点ずつ確認して書写人・奉納者の確認を行なう予定であったが、『勢州宮崎文庫書目』には各書籍ごとに奉納者が明記されているため、そうした作業の必要性は無くなった。そこで次の作業として、文庫の運営に深く関与したであろう人物達の奉納図書を中心に調査を行ない、書籍の入手経路ならびに奉納の動機などを確認する事としたい。 その際、注目される人物はまず第一に文庫創建に携わった外宮祀官たちである。創建当時、蔵書の充実は最優先の課題であり、彼らが何処に書籍を求めたのかは、近世の知の源泉を探るうえで大いに役立つ。またそうした作業に関与した山田地域の御師の活動も、当文庫を外宮祀官の収容施設と捉える従来の見解を見直すうえで、非常に重要となる。その他、儒学者・紀州藩・出版業者の献本についても順次調査を進めていく事としたい。 なお2020年4月以降は新型コロナウィルスの感染拡大と、それに伴う緊急事態宣言の発表を受けて、県をまたいだ異動が困難となっている。もしそうした状態が長く続くようであれば、先に述べた神宮文庫での調査は断念せざるを得ない。従ってそうした場合は豊宮崎文庫の蔵書目録の調査・分析を引き続き実施し、書籍取集活動に伴う蔵書の拡充や、集める書籍の傾向など、近世を通じた当文庫の発展過程を把握する作業を行なっていく方向で計画を変更する事としたい。
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Causes of Carryover |
本研究では、既に廃止された豊宮崎文庫の蔵書を多く収める神宮文庫の利用を活動の中心に据えていた。しかし2019年4月より2020年3月末日まで当文庫が耐震工事のために閉庫する事となり、当初の研究計画の変更を余儀なくされ、次年度使用額が生じる事となった。 また当該年度は国立公文書館をはじめとする各地の施設での史料調査を実施したが、年度末に向けて新型コロナウィルスの感染拡大が懸念されるようになり、他県への移動に制限が設けられたことも、次年度額が発生した一因である。 幸いにして2020年4月より神宮文庫は無事に開かれる運びとなった。従って次年度に於いては当初の予定通り、当文庫での史料調査を中心に研究活動を展開する事とする。ただし、なおも新型コロナウィルスの感染拡大が継続し、調査の実施が困難であった場合は、御師関係史料ならびにその研究書、あるいは史料の撮影機材の充実に次年度使用額を用いる事としたい。
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Remarks |
2020年2月2日、日本学研究会(於金沢工業大学)にて本研究の進捗報告を行なった。
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