2021 Fiscal Year Research-status Report
Rethinking on coprincipal from the viewpoint of speech act theories
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19K13541
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Research Institution | Daito Bunka University |
Principal Investigator |
小島 秀夫 大東文化大学, 法学部, 教授 (10837884)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 過失の共同正犯 / 共同義務の共同違反 / コミュニケーション関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
共謀共同正犯の成立範囲を限界づけるにあたっては、言語行為論の観点から「共謀」概念を捉え直すだけではなく、実務における「共謀」概念を比較法的に考察することも必要である。そこで2021年度は、ドイツ刑法典30条2項に規定されている申合せ罪について研究する予定であった。しかし、コロナ禍による渡航制限の影響からドイツでの資料収集が難しいため、昨年度の成果を踏まえて、過失の共同正犯に関する日本の判例研究を行った。 共同正犯が規定されている刑法60条の趣旨は、複数人が協力しながら実行行為の一部を分担して犯罪が実現すれば、1人で実行行為の全部を完遂しなくても、その複数人全員に正犯としての(全部の)責任を問うことを可能にするものであり、このような法律効果をもたらす一部実行全部責任の法理は、各則に設けられている過失犯規定にも及びうる。そうであるならば、過失の共同正犯が認められる余地はあるだろう。 近時の最高裁決定では、過失の共同正犯の成立要件として「共同の注意義務に共同して違反したこと」を求めているが、「共同の注意義務」がどのような場合に認められるかについては明らかではない。一部の学説からは、特定の「義務」を先に導き出したうえで、その「義務」が各行為者に共通しているかどうかを検討すべきであると主張されているが、過失の共同正犯における行動規範の対象は、何らかの特殊な注意義務に違反する行動なのではない。過失の共同正犯においては、「2人以上共同して不注意な行為をしてはならない」という行動規範が向けられ、まずはどのような場合に「共同」性が認められるかが問題となる。 言語行為論に基づいて捉え直した共謀概念を踏まえると、過失の場合でも、共同性が認められるためには、各行為者が一定の結果の実現に向けて相互に拘束しあう、ある種の連帯関係ないしコミュニケーション関係が構築されていなければならないと考えられよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ドイツ刑法典30条2項に規定されている申合せ罪は、法政策的に規定されたものであり、実務では限定的な解釈が施されている。申合せ罪が問題となった判例についてはデータベースなどを用いて収集することができた。しかし、渡航制限により現地での資料収集ができなかったことから、判例における「申合せ」の捉え方が言語行為論における「約束」行為と合致しているか否かの検討は、残されたままとなっている。 また、日本で資料収集を進めていくなかで、他のドイツ語圏にも目を向ける必要が出てきたが、それらの資料収集は不十分であるといわざるをえない。こうした事情を踏まえて、本研究課題の進捗状況については、当初の計画に比べて「やや遅れている。」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
渡航制限が緩和された場合には、ドイツ国内での資料収集を実施したい。それが難しい場合には、オンラインにて研究協力者にインタビューをするなどの方策を考えている。 2022年度には、これまでの研究成果をまとめた論説を発表する予定である。その際には、黙示の意思連絡が認められた日本の近時の判例(最決平30・10・23刑集72巻5号471頁、最決令3・2・1刑集75巻2号123頁など)にも言及し、言語行為論における「約束」やドイツ刑法典30条2項における「申合せ」などとの比較を行いたい。
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Causes of Carryover |
ミュンヘン大学にて資料収集する計画を立てていたが、渡航制限により、旅費や資料複写代などを翌年度に持ち越すこととなった。渡航制限が緩和され次第、現地にて資料収集を行いたいと考えており、当該助成金については次年度に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)