2021 Fiscal Year Research-status Report
株主の取締役に対する会計情報の開示請求権:最適な制度設計のための比較制度研究
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19K13576
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
千手 崇史 近畿大学, 経営学部, 准教授 (80631499)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 会計帳簿閲覧謄写請求権 / アメリカ会社法 / コモン・ロー / デラウェア州一般会社法(DGCL) / 模範事業会社法(MBCA) / 帳簿・記録開示請求権 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、会計帳簿に関する国内の状況についての研究である「株式会社における株主の会計帳簿閲覧謄写請求権-法改正の変遷と制度趣旨・機能の不一致-」を発表した(商経学叢67巻3号;2021年3月付)。本論文では、会計帳簿閲覧謄写請求権の「株主の取締役に対する責任追及や監視機能の行使手段」という制度趣旨が時代によって変化していないこと、一方、実態として(もと取締役など)「既に不祥事の兆候をつかんでいる株主」でなければ利用が難しいものとなっている点を明らかにし「制度趣旨と機能の不一致」を指摘した。そして何よりも、企業秘密を含む情報を株主に直接開示する制度にしては漏洩防止の手当てが不十分である。以上のような点で、会計帳簿閲覧権はその機能を発揮しにくい状況にある。 かかる機能不全の理由を深く知るために、続けて、母法であるアメリカ法の調査に取り組み、積極的・徹底的に調査をした。アメリカ法上の帳簿・書類の調査権はより広い範囲の情報(会計に限られず、取締役会の議事録やメールのやりとりまで)の閲覧・調査ができ、またコモン・ローと各州の制定法が併存する等、日本法とは違う特徴を持つので、その点に特に注意した。アメリカ会社法の代表格として影響力を持つ「デラウェア州一般会社法(DGCL)」および同州の膨大な判例を積極的に検討した(その際、例えばデラウェア州の民事手続法制の特徴(例えば二審制をとるなど)や判例の位置づけなどにも相当に注意を払った)。 この研究の過程においては、立命館大学商法研究会(6月5日)、関西商事法研究会(7月24日)等の研究会にて報告を行い、先生方から賜った貴重なご指摘をもとにブラッシュアップをはかり、その成果を「アメリカ会社法上の株主の帳簿・記録開示請求権-「正当な目的」要件と情報漏洩防止に関するデラウェア州判例法理を中心に-」(商経学叢68巻2号;2021年12月付)として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
遅れを取り戻すべく、全力を挙げている。結果、特にアメリカ法に関して、主要な文献は殆ど入手し、また関連する130程度の裁判例を概観することができ、それが成果(商経学叢68巻2号)へと結びついた。その検討結果の概要は以下の通りである。①包括的・絶対的な株主の情報開示請求権として出発したアメリカの当該制度は日本法と出発点においてそもそも異なる。②アメリカ法は開示請求の場面で、主に株主側が立証責任を負う「正当な目的」要件の他に「信頼できる根拠」基準、「不可欠性」基準という三重の基準によって、株主の請求をきめ細かくえり分けて情報漏洩を防止している。③実際の開示の場面でも裁判所の裁量権の発揮により情報漏洩防止のための条件を事案ごとに付している。④既に守秘義務の対象である情報については「潜在的利益・害悪」をさらにきめ細かく衡量する別の判例法理が発達している。総じて、アメリカでは相当強力な情報漏洩防止の法理・実務を構築していることが明らかになった。この結果を商経学叢67巻3号論文と対照し、以下の見解に至った。すなわち、日本法上の会計帳簿閲覧謄写請求権は、制度導入時から現在に至るまで、アメリカ法の「株主が会計情報を取得する」という表面しか参照せず、その背後にある上記内容に目を向けてこなかったのではないか。また、アメリカ法と異なり情報漏洩の危険性が高い点が、日本で当該制度が利用されなかった根本原因なのではないか。 そこで次は、直接帳簿書類を閲覧させるアメリカ・日本法上の同制度と対照的に、(株主が不祥事等を疑う場合の情報取得手段として)守秘義務を負った弁護士等を介在させて会社情報を調査させる「検査役」を原則とするイギリス法の調査を積極的に行っている。既に制度の概要の検討が終わり、現在は判例を収集・相互検討している段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は世界的な感染症の流行による物流網の停滞、またそれに伴う大学の業務内容の変化等の影響を受け、遅延を余儀なくされた。その後その遅延を克服すべく全力で研究を進めてきた。当初予定では、本研究は2021年度までで満了する見込みであったが、あと1年延長することでさらに研究のクオリティを高めることができ、一定の完結をみることができると思われたため、熟慮の末前年度末に延長を申請し、認めていただいた。 残り1年で、イギリス検査役の特質に関して、最低限でも総論的な分析は完了させたいし、時間が許す限り本研究を深め、さらなる調査・分析を行いたい。既に、前年度のアメリカ法研究を一旦論文としてまとめた後直ちにイギリス文献の収集と検討、執筆に着手しており、2022年4月1日時点で既に19000文字程度の執筆を完了している。これからも積極的に資料収集、読解、分析・検討を続ける。 なお、現在遂行中の研究内容についても、直近の関西商事法研究会(4月23日)をはじめとする複数の研究会で途中経過や展望などを報告・発表させていただき、他の先生方から頂戴するご指摘を踏まえて推敲した上で、速ければ9月、遅くとも1月に脱稿し、弊学の紀要(商経学叢)その他の媒体に対して投稿することで本科研費による研究を締めくくることを考えている。
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Causes of Carryover |
先述の通り、研究が計画よりも遅れており、1年の延長を申請した。そのために予算に関しても次年度使用額が生ずることとなった。春季休業期間を活用して研究を進め、それに伴ってこれら額についても計画的に執行している。 主に研究用書籍の購入に用いる予定であり、早期にすべてを執行し終わる計画である。
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Research Products
(2 results)