2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K14250
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Research Institution | Nagoya Women's University |
Principal Investigator |
勘米良 祐太 名古屋女子大学, 文学部, 准教授 (10761778)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 文法教育 / 国語教育 / 植民地 / 朝鮮 / 朝鮮総督府 / 朝鮮教育令 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度における本課題の成果として、次の3点の論文を発表したことがある。
(1)「国語科文法教科書における仮定形の定着過程」『人文科教育研究』48、pp.79-92/(2)「大正期植民地朝鮮における文法教育が国民統合に果たした役割―高等普通学校用教科書『日本口語法及文法教科書』に着目して―」『月刊国語教育研究』597、pp.48-55/(3)「知識事項と他領域との関連を問い直す―2010年代の文法教育に関する文献レビューを通して―」『国語教育史研究』22、pp.9-17
以下はとくに、(2)の論文について述べる。本論文においては、朝鮮総督府編『日本口語法及文法教科書』(1918年)を対象として、この時期の植民地朝鮮における文法教育が国民統合にどのような役割を果たしたのかを考察した。考察のための基礎的な作業として、当該教科書といわゆる内地における教科書(金澤庄三郎編集の教科書)の相違点を分析した。その結果、(ア)口語文体の取り扱いを増加させていること、(イ)文語文体の内容として形容動詞や文型といった事項を増加させていること、(ウ)同じく文語文体の内容として、アスペクトとしての完了や名詞の下位分類といった事項を削除していることがわかった。このうち、(ア)(イ)の原因としては、日本語普及率が低迷するなか、生徒の発話・日本語運用に資する内容を加えたことがある。また(ウ)の原因としては、植民地朝鮮における普通学校(いわゆる内地における中学校に相当)において、外国語が必修でなかったために関連する事項としての「完了」などの内容が不要とされた可能性が指摘できる。このように見てくると、植民地朝鮮における文法教科書においても、国民統合の論理からとくに内容が変更されたという様子は見られない。今後はこのような編纂方針を可能にした論理についてさらに考察していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により、当初予定していた韓国での調査は十分に行えていないが、一定の資料を収集し、論文投稿を行っている。2022年度も国内で入手可能な資料をもとに研究を進める予定だが、コロナ禍が沈静ししだい、韓国における調査を再開したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、とくに次の2点について考察していきたい。 (1)読本における文法指導および国民統合の論理 朝鮮総督府第2期『普通学校国語読本』(1923年)は、いわゆる内地における読本との比較を行うことで、当時の植民地朝鮮読本における国民統合の論理を明らかにできる可能性がある。それはこの読本の編纂に芦田恵之助が関わっているためである。芦田は、内地における第3期『尋常小学国語読本』(1918年、いわゆる「ハナハト読本」)に参加した手腕を買われ、第2期『普通学校国語読本』の編纂を依頼されている。芦田は、内地における読本の特徴をふまえつつ、それを乗り越える(あるいは踏襲する)ことで植民地朝鮮における読本を編纂しようとしたと想定できる。ここから、朝鮮2期読本と内地3期読本を比較することで、とくに植民地朝鮮において仮託された国民統合の論理を明らかにできる可能性がある。 (2)文法教育における国民統合の論理の再考 『日本口語法及文法教科書』(1918年)においては、いわゆる内地用の教科書との共通点が多いとはいえ、植民地朝鮮用の文法教科書が編纂されていた。しかし少なくとも1931(昭和6)年になると、「認可」することで内地と同じ文法教科書を用いるのを認めるようになる。つまり「国語ヲ常用トセザル」植民地朝鮮の生徒に対しても、「国語ヲ常用トスル」内地の生徒と同様の文法教育を行うことにするのである。この転換を可能にした論理について考察する必要がある。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、国内外の調査や学会出張が行えなかったため(そのぶん、文献費や複写費を予定より多く支出している)。
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Research Products
(7 results)