2022 Fiscal Year Research-status Report
自閉スペクトラム症の成人女性の「社会適応」に関する臨床心理学的研究
Project/Area Number |
19K14441
|
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
砂川 芽吹 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (70823574)
|
Project Period (FY) |
2020-02-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 自閉スペクトラム症 / 女性 / 社会適応 / カモフラージュ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,「自閉スペクトラム症(以下,ASD)のある女性における社会適応とは何か」という問いを明らかにし,当事者の視点から支援を検討することである。本年度は,以下の2つの調査に取り組んだ。 ①ASDのある女性の「社会適応」の認識に関するインタビュー調査(昨年度より継続): ASDのある女性当事者10名に対して「社会適応」について尋ね,質的分析方法を用いて検討した。その結果,協力者の「社会適応」の認識ついて大きく二つのテーマが得られた。すなわち,安定した人間関係の維持および社会的役割を果たすことであり,この認識の背景には過去の経験の影響があった。そのような認識のもと,当事者は日々の生活において社会に適応することと,安定を維持をしながら自分なりに適応することとの間でバランスを取りながら生きていることが示唆された。この成果に関する論文は,BMC Psychologyに採用された。 ②ASDのある女性のカモフラージュ行動に関するインタビュー調査(昨年度より継続): ASDのある女性の適応行動として近年注目が集まっている「カモフラージュ」について,その具体的な経験や背景要因を明らかにすることを目的にインタビューを継続的に実施し,本年度までに計21名の女性当事者から協力を得た。アセスメントデータの量的分析,およびインタビューの初期の質的分析結果については,関連する国内での学会にて発表した。分析の結果,ASDのある女性において,カモフラージュのネガティブな影響が語られたが,一方で社会に適応するうえでカモフラージュの効果を踏まえ,「うまく付き合う」という能動的なカモフラージュの在り方も示された。今後は海外の先行研究で示されているような,カモフラージュに影響する動機や,社会文化的背景との比較から,わが国特有のカモフラージュの在り方や要因を検討する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
インタビューで得られたデータの分析過程において,女性当事者の体験の多様性,特に年代による経験の相違点が認められた。そのため,当初予定していたような男性当事者やASDのない女性の経験との比較よりも先に,女性当事者間での多様性に注目する必要があると考え,年代や属性を分けた分析を試みた。その結果については,国内の学会において発表済みである。 しかしながら,結果的に予定していた男性当事者に対するインタビューが実施できなかった。また特に適応行動(カモフラージュ)に関するインタビュー調査については論文化など結果の公表には至っていないことから,本研究課題の進捗状況は当初の計画よりもやや遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は,ASDのある女性当事者に対して実施した適応行動(カモフラージュ)に関するインタビュー調査の分析を終え,関連学会での発表したのち論文にまとめる。 また,カモフラージュはジェンダーに関する役割期待や規範の影響があると想定されることから,ASDのある男性さらに多様な性の当事者に対しても女性当事者と同じ枠組みでインタビュー調査を実施し,それぞれの経験の共通点と相違点について検討する。 以上のことにより,ASDのある当事者の社会適応について,具体的な行動やその認識といった個人的経験だけではなく,その背景となるそれぞれの性に関する社会的期待,特に日本という社会文化的要因を踏まえた環境要因についても明らかにする。
|
Causes of Carryover |
本年度は新型コロナウイルス感染症の影響で,多くの学会がオンラインでの開催となったために旅費の使用額が想定を大きく下回った。また,インタビュー調査の実施についても感染状況から対面ではなくオンラインでの実施となったために,それに係る交通費や会場費等の使用がなかった。併せて,本年度に実施予定であったインタビュー調査の実施が遅れたために,協力者や調査補助者への謝金の支払いが想定を下回った。本年度の使用計画としては, これまで実施したインタビュー調査での分析を終えて国内外の学会での発表および論文投稿に係る諸費用として使用する予定である。
|
Research Products
(5 results)