2019 Fiscal Year Research-status Report
Quotスキームを用いた小林-ヒッチン対応及びヒッグズ束への変分法的アプローチ
Project/Area Number |
19K14524
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
橋本 義規 東京工業大学, 理学院, 助教 (60836485)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 小林-Hitchin対応 / 正則ベクトル束の安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
代数幾何学的概念であるベクトル束の安定性から非線型偏微分方程式の解であるHermite-Einstein計量の存在が示されることがDonaldson-Uhlenbeck-Yauの定理により知られているが,証明は高度な非線型偏微分方程式論を用いるものであった.本研究計画の第一の目標は,Fubini--Study計量のQuotスキーム極限を用いることによって,高度な解析学を用いず変分法の観点からより幾何学的に自然な別証明を与えることであった.
Juien Keller氏との共著によるプレプリントarXiv:1907.05770において,Donaldson汎関数の下限についてある種の一様評価が成り立つことを仮定すれば,初等的な解析学の結果のみを用いた変分的証明が可能であることを示した.この一様評価に関する仮定は高度に非自明であり,代数曲線などの簡単な場合でも,既存の非線型偏微分方程式論を用いずに証明することは難しかった.この仮定を外すためには真に新しいアイデアが必要だと考えている.このような強い仮定を置かなければならなかったことには不満が残るが,Donaldson-Uhlenbeck-Yauの方法とは全く異なる証明の道筋を与えることができたことについてはある程度評価できると考えている.
一方で,Donaldson-Uhlenbeck-Yauの定理の証明に応用することはできない部分的な結果ではあるが,上記プレプリントではDonaldson汎関数の下限の一様評価を与えるための十分条件も与えた.これらの結果は国内外の多数の研究集会・セミナーにて発表し,関連分野の研究者と有益な議論を行うことができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べたように,Donaldson-Uhlenbeck-Yauの定理の初等的な別証明を与えるという本研究計画の第一目標は,完全な形ではないものの,ある程度の学問的意義をもつ結果を出すことができたと考えている.仮定せざるを得なかったDonaldson汎関数の下限の一様評価については,多くの時間を割いて考えたが,非線型偏微分方程式論による既存の方法を用いないことは難しく,これに関して新規性の高い結果を出すことは現状では難しいと判断した.その意味では未だ課題は残るが,Donaldson-Uhlenbeck-Yauの方法とは全く異なる証明方針を与えることができたことを評価して,上記区分の進捗状況とする.
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Strategy for Future Research Activity |
Donaldson-Uhlenbeck-Yau定理の別証明を与えることとは別の,本研究計画のもう一つの大きな目標は,Fubini-Study計量のQuotスキーム極限を用いた方法を正則ベクトル束に追加的構造が加わった場合の小林-Hitchin対応に拡張することである.特に興味深い対象としてはHiggs束があるが,このためにはまずHiggs束についての先行研究から知識を吸収する時間がある程度必要だと考えている.この分野の国内外での研究集会に参加し議論を行うことで知識を得るというプランは,新型コロナウイルスの影響で直近ではかなり難しくなってしまったが,WEBでのセミナーやオンラインの議論によって代用したいと考えている.
また,今回の研究計画と関連する話題で興味深いものが見つかれば引き続き探索していきたいと考えている.既存の定理の別証明であれば,Quotスキーム極限の方法を応用できる問題がありそうだと考えているが,できるだけ新規性の高い結果を得るためにも関連する隣接分野の勉強を続けていきたい.
研究実績の概要で触れた,プレプリントarXiv:1907.05770におけるDonaldson汎関数の下限についての仮定を外すことは今後の大きな目標であるが,短期的で結果を出すことは難しいかもしれないとも考えている.長期的計画として,何か新しいアイデアがあればこの問題について再度考える予定である.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で,3月末に予定していた研究者招聘がキャンセルとなってしまった.数学の研究では大きな設備投資が必要ない反面,研究者同士の議論が不可欠であり,旅費は大きな支出用途である.新型コロナウイルスによる移動規制が収束しない限り旅費としての使用は困難であるが,騒動が収まり次第出張や研究者招聘を中心とする科研費使用を考えている.
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Research Products
(8 results)