2022 Fiscal Year Research-status Report
Quotスキームを用いた小林-ヒッチン対応及びヒッグズ束への変分法的アプローチ
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19K14524
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
橋本 義規 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (60836485)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 平坦線束 / Hermite-Einstein計量 / Hoermander評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
小池貴之氏との共同研究において,正則平坦線束に関する結果を得てarXivにて公表した (arXiv:2212.01360).この結果は曲率が0となるような正則線束,つまりHermite-Einstein計量の非常に特殊な場合に関する結果であり,そのような正則線束のdbar作用素について一様に成り立つHoermander型のL2評価を得た.この一様評価の特徴は,正則平坦線束が自明なものに近づくにつれてL2評価の定数が爆発する様子を定量的に評価できることである.さらに,この結果の系として,上田の補題と呼ばれる複素力学系で重要な結果の別証明を得ることに成功した他,Ricci平坦な多様体上の非自明正則平坦線束がPicard多様体上で自明な線束に十分近いならばコホモロジーが消滅することも示した.この研究では,平坦線束のモジュライ空間(の連結成分)であるPicard多様体が重要な役割を果たしたが,これは本研究計画のテーマの一つであるQuotスキームと大いに関係するアイデアに基づくものである.本研究では,Picard多様体の座標系をうまく定めることにより,摂動dbar作用素という作用素を新たに定義したことが一様評価を得る際に重要な役割を果たした.これは正則平坦線束の研究に際して他にも応用が期待できると感じている.また,申請者がこれまでの研究で得た結果の一部に関するサーベイ論文を執筆した(arXivでは現在未公開,査読中).
上記結果や前年度までに得られた結果を国内外のセミナーや研究集会にて発表し,関係者と議論を行った.研究集会などでの議論に加えて,大阪公立大学に異動後,集中講義やその他の機会を通じて関西圏の研究者や訪問研究者及び学生と多くの有益な議論を行うことができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正則平坦線束に関する一様Hoermander型評価についての研究において,摂動dbar作用素という興味深い数学的対象を発見して活用できたことに対しては一定の評価ができると考えている.この研究は当初予定していたものではなかったが,共同研究者の小池貴之氏との議論を端緒に研究が進む中で興味深い結果が得られたことから,優先的に研究を進めた.
一方で,上記研究を集中して行ったこと,また研究以外の教育・アウトリーチ活動に時間を使わざるを得なかったことから,Higgs束に関してほとんど研究を進められなかったことは反省点である.ただ,関連分野の研究者との議論によりHiggs束に関する知見を深めることはできた他,Jonsson-McCleerey-Shivaprasadによる新たな変分法的アプローチが提案されたことにより,彼らのアイデアを学んで応用する方が良い結果が出る可能性があると考えるに至ったので,申請者のQuotスキームを用いたアプローチとの相違点を模索することも含めて今後の研究課題として追求したいと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
Jonsson-McCleerey-ShivaprasadによるDonaldson-Uhlenbeck-Yau定理の新証明 (arXiv:2210.09246) が発表されたことで本研究計画についての状況が大きく変わったと考えている.彼らの研究は申請者の研究計画と同様に変分法的アプローチによる証明を追求したものであるが,様々な解析的工夫によりQuotスキームを用いない方針で大きな結果を上げた.
Higgs束に対する応用を考える際にも,彼らのアプローチは非常に有効だと期待される.上でも述べたように,申請者の申請者のQuotスキームを用いたアプローチとの関連も追求しながら,Higgs束への応用についても関連分野の研究者と議論を重ねて進めていきたいと考えている.その一環として,今年度McCleerey氏を訪問し,対面での議論を行うことによって彼らの結果をより深く学ぶことを予定している.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により旅費としての支出が難しい状況であった.国内の移動制限はかなり緩和され,海外渡航も可能になってきているので,来年度以降出張や研究者招聘などに力を入れたいと考えている.
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Research Products
(10 results)