2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K16303
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
稲田 健吾 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 訪問研究員 (20823363)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 視床下部 / 攻撃性 / オキシトシン / トランスシナプス標識法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題ではオスの攻撃性を抑える神経回路の探索を行う。特に他の成獣オスマウスや仔など、同種への攻撃性について扱う。こうした攻撃性を生み出す脳領域としては脳の視床下部にある神経核が報告されており、申請者は攻撃性を抑制する脳領域も同じく視床下部内に存在すると仮説を立てている。注目したのがホルモン物質であるオキシトシンである。齧歯類の未経産メスは仔に対して不干渉、あるいは攻撃的であるが、オキシトシン水溶液を人為投与されたり、脳内のオキシトシン産生細胞を人為刺激されたりした未経産メスは、母性行動をとるようになる。そこで申請者は、生来仔に対して攻撃的である交尾未経験のオスも、オキシトシン産生細胞を刺激することで攻撃性を抑えることができるのではないかと考えた。申請者はオキシトシン産生細胞を薬理学的手法で人為的に刺激しつつ、仔を刺激としてオスの前に提示した。するとこれらのオスマウスは仔に対して攻撃を行なわず、むしろ父親でみられるような保護し養育する行動をとった。すなわちオキシトシン産生細胞により仔への攻撃性が抑制されていることが示唆された。 父親となったマウスは、他人の仔へも攻撃を行わない。そのため、交尾未経験オスと父親とでは、オキシトシン産生細胞周りの神経回路に差異が見られる可能性がある。そこでトランスシナプス標識法を用いて、オキシトシン産生細胞に入力を送る神経細胞群を網羅的に可視化した。すると両者のパターンはおおむね似ていたものの、いくつかの神経核からの入力には明瞭な違いが見られた。今後これらの神経核からの入力の機能について解析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
オキシトシンは古典的に子宮収縮や射乳に重要であることが知られており、主にメスにおいて盛んに研究されてきた。一方オキシトシン産生細胞はオスの脳内にも存在し、勃起や射精への関与が研究されてきたが、高次脳機能への影響についてはよくわかっていない。本課題ではオスの攻撃性を緩和する神経回路として、オキシトシン産生細胞が重要な役割を担っているのではないかと仮説を立て実験を行った。神経活動を人為的に昂進させることのできるタンパク質をオキシトシン産生細胞に発現させ刺激することで、オスの仔への攻撃性が抑制されることを見つけた。 本年度の実験により、攻撃行動を評価するための実験パラダイムの作成や、強く関与していることが疑われる神経回路の同定を行うことができた。次年度以降はこれらを活用することで、攻撃性緩和のための神経回路を包括的に調査する。
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Strategy for Future Research Activity |
攻撃性には同種の成獣に対するものや、天敵など他種に対するもの、あるいは縄張りに置かれた未知の物に対するものなど、いくつかのパターンがある。これらの攻撃行動が同一の神経回路から生み出されているかは分かっていない。1年目の本年度には、オキシトシン産生細胞が仔への攻撃性抑制に関与していることを確認した。今後はまず同種である成獣オスへの攻撃行動も抑えられるのかを調べる。 オキシトシン産生細胞が攻撃性の抑制を担っている場合、これらがどのようなタイミングで活動しているかは興味深い疑問である。そこで次年度以降、単一神経細胞の分解能で神経活動を自由行動下でイメージングできる機器を用いて、神経活動の時間的なダイナミクスについても解析する。
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Causes of Carryover |
1年目に実施予定であった実験の一部を、2年目に行うことになった。そのため1年目に必要とされる物品費よりも、交付額が上回った。繰り越された分は2年目の実験で使用する。
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