2020 Fiscal Year Research-status Report
神経細胞に対する栄養作用と局所消炎作用とを兼ね備えた新たな神経組織再生医療戦略
Project/Area Number |
19K19173
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
太田 麻衣子 岩手医科大学, 歯学部, 研究員 (60824993)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 神経栄養因子 / 間葉系幹細胞 / 抗炎症性マクロファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
三叉神経第三枝下顎神経の枝として知られる下歯槽神経は、下顎孔より入り下顎管を走行してオトガイ孔から出た後にオトガイ神経となりオトガイ部や下唇部の知覚を司る。歯科医療の現場では、下顎埋伏智歯の抜歯の際の下歯槽神経損傷時にオトガイ部の知覚麻痺がしばしば認められるが、この治療法としては局所の安静を保ち神経の再生を待つなどの消極的且つ保存的な療法を選択するのみである。また、下歯槽神経やオトガイ神経が再生し知覚麻痺が治癒するまでには1年あるいは2年の歳月を必要とする場合もあり、歯科医療における積極的な神経再生療法の樹立が待たれている。 間葉系幹細胞は骨髄や脂肪組織、歯髄あるいは歯周靭帯中に存在し、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、靭帯組織、血管組織ならびに筋肉組織などの再生能力がある幹細胞として知られており、再生医療への幅広い応用が期待されている。また最近、この間葉系幹細胞は抗炎症性マクロファージ(M2-MΦ)制御性T細胞(Treg)の炎症巣周囲へのホーミングを誘導することで炎症反応を抑制することや、造血性幹細胞移植時に間葉系幹細胞を同時移植することで造血幹細胞ニッチとして働き造血前駆細胞の増殖や分化を支持することなどが明らかとされつつある。このように間葉系幹細胞はその組織再生能力のみならず、周囲の様々な細胞に働きかけてその機能を調節することにより人体に利益を齎すことが明らかとされてきている。しかし、間葉系幹細胞が神経細胞の再生に如何なる利益を齎すかどうかは明らかとされていない。 間葉系幹細胞による顎顔面領域の神経再生効果を炎症環境下で最大限に引き出すための分子メカニズムを解明し、間葉系幹細胞とM2-MΦを併用した革新的な神経再生療法の樹立に繋げたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、間葉系幹細胞への炎症性サイトカイン刺激による神経栄養因子(NGF)の発現抑制効果の発現に関わるモデル分子のさらなるピックアップ作業を実施した。IL-1βやTNF-αなどと同様に代表的な炎症性サイトカインとして知られるIL-6の間葉系幹細胞におけるNGFの発現に対する効果を調査したところ、予測に反してIL-1βやTNF-αなどで認められたNGF発現抑制効果を示さないことが明らかとなった。加えて興味深いことに、間葉系幹細胞でのNGFの発現を増強する抗炎症性サイトカインであるTGF-βの刺激により、炎症性サイトカインIL-6の発現が増強することが明らかとなった。これらの結果より、間葉系幹細胞では、TGF-βによる刺激はNGFを産生して神経栄養的に働くばかりではなく、IL-6の産生も同時に促進して周囲組織の炎症性反応を増強する可能性が示唆された。現在、間葉系幹細胞あるいは神経細胞に対する間葉系幹細胞由来IL-6の影響について調査を進めるとともに、間葉系幹細胞におけるTGF-β誘導性IL-6発現メカニズムを明らかとすべく調査を継続中である。このように、間葉系幹細胞における抗炎症性サイトカインの作用は、神経栄養的に働くのみならず、神経組織周囲の炎症を増強して神経の生理的機能に負の影響を与える可能性があることが判明した。これらの研究結果の検証に時間を要したため、マウスオトガイ神経損傷モデルを用いたNGF発現を抑制するモデル分子絞り込み実験の進行に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
① マウスオトガイ神経損傷モデルを利用し、間葉系幹細胞の局所への移植と組織修復性サイトカインTGF-βならびにこれまでに特定したターゲット分子の阻害剤あるいはsiRNAの局所投与との併用による間葉系幹細胞を用いた新たな神経再生細胞治療の可能性を探索する。なお、神経組織の再生の程度は組織学的あるいは生理学的に調査する。 ② ex vivoにて大量培養したM2-MΦをマウス歯周靭帯神経損傷モデルあるいはマウスオトガイ神経損傷モデルの局所に移植することにより、神経組織再生作用が増強されることを検証する。なお、この実験で移植するM2-MΦの大量培養は、(Takizawa et al, Exp Cell Res, 358: 411-420)の方法に従い実施する。 以上の研究により、間葉系幹細胞による顎顔面領域の神経再生効果を炎症環境下で最大限に引き出すための分子メカニズムを解明し、間葉系幹細胞とM2-MΦを併用した革新的な神経再生療法の樹立のための分子基盤を確立したい。
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