2019 Fiscal Year Research-status Report
スポーツ指導者による運動部員に対する非人間化が体罰への容認的態度に与える影響
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19K20039
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
寺口 司 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (30779567)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 体罰 / 非人間化 / 道徳からの選択的離脱モデル / 正当化 / IAT |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では運動部活動における体罰の正当化に対して、運動部員に対する非人間化(運動部員は人間に満たない存在であるという考え)が与える影響について検討を行うことを目的とした。しかし、非人間化は直接尋ねた場合、例え肯定的態度を持っていたとしても歪めた回答を行う可能性がある。 そこで当該年度では3回の予備調査を踏まえ、運動部員に対する非人間化IATの開発を行った。この非人間化IATでは運動部活動の指導者・運動部員に関連する単語、動物・人間に関連する写真を提示し、実施者に分類を求めることで、その分類速度から当人の中で運動部員・動物の2つの概念が潜在的にどれほど連合しているのかを計測することが可能である。 この非人間化IATを用いてクラウドソーシングサービスに登録している一般人男女500名を対象とした調査を行った。調査では非人間化IATを計測後、体罰の正当化(体罰に関わる事件記事を読んで、加害者にポジティブな印象を抱くかどうか)、顕在的非人間化(被害者を動物的と思うか、機械的と思うか)などを尋ねた。 分析の結果、指導者と比べて運動部員を顕在的に非人間化している人ほど、体罰を正当化していることが示された。またこの結果は動物化においてのみ認められ、機械化では認められず、予測と一貫した結果である。加えて、非人間化の影響は性別、年齢、学歴などのデモグラフィック要因や、体罰そのものへの態度、パーソナリティなどを統制しても認められた。ただし非人間化IATとの関連は認められなかった。 以上から、被害者への動物化、つまり運動部員が動物のように未成熟で知性のない存在であるという認知によって体罰がより正当化されることが示された。特に、顕在的非人間化による関連が認められたため、この態度は意識上に現れる、頑健なものと考えられる。このことから体罰防止教育において被害者に対する意識改善の必要性が指摘される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予備調査を含め、計4回のオンライン調査を元に非人間化IATの開発を行った。この点については当初の計画よりも綿密な実施を行い、かつ、当初の計画通りのスピードで実施ができている。 ただし、コロナウイルスの影響により当初予定していた対面による実験室実験が実施できなかった。そのため、コロナウイルス禍鎮静後での実施、およびオンライン上での実験を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点の研究では運動部員に対する非人間化に関して、潜在指標である非人間化IATによる計測では体罰の正当化との関連が認められなかった。この点については潜在指標自体に問題がある可能性と、潜在指標が関連する変数が予測と異なる可能性が指摘される。 1点目については、本年度で開発した非人間化IATが運動部員への非人間化を予測通りに計測できていない可能性がある。特に非人間化IATはオンライン上で実施したものの、オンライン上では実験者側で参加者の環境を統制しきれない。そのために正確な計測が出来なかった点は否めない。対策として次年度ではコロナウイルス禍鎮静後に実験室での実施を試みる。 2点目については、本年度では体罰の正当化に対して参加者に直接尋ねるという顕在的な指標で尋ねている。つまり、体罰の正当化に対しても意識的に回答が歪められている可能性があり、同じく意識的な影響があったと考えられる顕在的非人間化とのみ関連が認められた可能性は否めない。そこで次年度では体罰の正当化に対しても潜在的な指標で尋ね、その関連を検討する。これにより意識的な回答の歪曲が起きず、関連性が検討できると考えられる。
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Causes of Carryover |
本年度では3月に実施予定であった実験室実験について、新型コロナウイルスの影響もあり、実験参加者を集めることが非常に困難となったために次年度使用額が生じている。この分については社会状況を見極めつつ、次年度に実施を行う。ただし、年度内に実験室実験が困難と考えられる場合、オンライン実験を用いた検討に切り替える。
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