2023 Fiscal Year Annual Research Report
世界遺産の参詣道「熊野古道」を歩くことで得られる意味深い心理的経験の実証研究
Project/Area Number |
19K20568
|
Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
伊藤 央二 中京大学, スポーツ科学部, 准教授 (00736861)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | スポーツツーリズム / 観光行動 / 感嘆経験 / 世界遺産 / 巡礼道 / 熊野古道 / ガイド / 生理心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではアクティブスポーツツーリズムを通して得られる意味深い心理的経験を、世界遺産でもあり、参詣道でもある熊野古道を対象に明らかにすることを全体の研究目的とした。研究プロジェクトの最終年度となった令和5年度には、熊野古道中辺路において、和歌山大学学部生を対象とした現地調査を3日間にかけて実施した。本調査の主な目的は、熊野古道を語り部(ガイド)と歩くことで感嘆経験が高まるか明らかにすることであった。調査参加者には、高原霧の里休憩所から滝尻王子まで歩いてもらい、その間に5回オンライン調査に回答してもらうとともに唾液採取を行った。なお、参加者は熊野古道館で語り部から説明を受け、語り部と一緒に熊野古道を歩く「介入群」と、熊野古道館にも立ち寄らず、語り部もなしで熊野古道を歩く「コントロール群」にランダムに分けられた。データ分析の結果から、語り部の有無に関わらず、世界遺産の参詣道である熊野古道を歩くことで感嘆経験が高まることが明らかになった。さらに、語り部と一緒に熊野古道を歩いた「介入群」では、ある特定の調査区間において、語り部なしで熊野古道を歩いた「コントロール群」よりも、感嘆経験が有意に向上していたことが認められた。つまり、熊野古道における壮大な自然風景だけではなく、語り部からの観光(熊野古道)情報という刺激が感嘆経験を高めた可能性が考えられる。対照的に、唾液アミラーゼという生理心理学指標では、そのような感嘆経験向上を支持する結果は得られなかった。唾液アミラーゼに対しては、熊野古道の自然風景や語り部の情報に基づく感嘆経験の影響よりも、歩行運動による影響が大きかった可能性が考えられる。語り部の役割は熊野古道を歩く観光客の感嘆経験を高める上で重要であることがうかがえるが、質問紙調査の自己報告に基づく結果と生理心理学指標に基づく結果は、調査の文脈によって異なることが示唆された。
|