2019 Fiscal Year Research-status Report
「西浦の田楽」で継承される「教え」のVR映像アーカイブの構築
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19K20633
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Research Institution | Mejiro University |
Principal Investigator |
彦坂 和里 目白大学, メディア学部, 助教 (70805580)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 西浦田楽 / 民俗芸能 / デジタルアーカイブ / VR映像 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、国指定重要無形民俗文化財「西浦の田楽」の継承支援のため、西浦田楽関係者が代々継承してきた演目に関する「教え」(継承される知識全般)を、VR映像デジタルアーカイブ化することを目指す。 その実現に向けて、2019年度は1920年代から現在の西浦田楽に関する文献調査や保存会主催の学習会、田楽当日の調査を行い、それらで得られた「教え」について、形の知識構造の枠組みをもとに演目の知識構造を記述し、それをもとにメタデータを設計することを試みた。その結果、文献を中心とした調査方法だと記述が不十分な箇所や執筆者による誤り等があることがわかった。また、知識構造の記述において、西浦田楽の知識は日本剣道形のように、知識を上位下位の関係を持たせて階層的に記述することは難しいことがわかった。メタデータの設計においては、既存語彙では正確に演目を表現できず、独自にメタデータ語彙を定義する必要がある等の課題を明らかにした。 この他に、現在の西浦の田楽の姿をテキストでは表現しきれない部分まで保存するため、2019年度の西浦田楽当日に全47演目に対し、2組のミラーレス一眼、魚眼レンズ、フィールドレコーダ、外付けSSDを用いた、360度4K動画撮影を実施した。これにより西浦田楽のVR映像コンテンツを制作するための準備が整った。さらに、西浦田楽に関する調査の過程で、在野の写真家が昭和時代の西浦田楽の写真を多数所有している事例を確認することができた。過去の西浦田楽の姿を保存するため、写真家に協力を依頼しながら、写真の収集も進めていく。その他、デジタルアーカイブの構築・公開による波及効果として、観光分野への応用の可能性があると考えており、どのようなデジタルアーカイブであれば応用が可能であるかを確かめるため、事例調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の研究計画として、西浦田楽の「教え」の収集、演目の知識構造の記述、田楽当日の撮影およびVRコンテンツの制作を予定していた。これらに加え、メタデータの設計の検討までを実施しており、おおむね順調である。ただし、演目の知識構造の記述とメタデータの設計において当初の計画より変更する必要が生じている。 これまでの調査で得られた西浦田楽の「教え」について、形の知識構造の枠組みをもとに演目の知識構造を記述し、メタデータを設計することを試みた。その結果、西浦田楽の知識は日本剣道形のように、知識を上位下位の関係を持たせて階層的に記述することは難しいことがわかった。これは、西浦田楽の知識はもとから体系化されたものでないためであると考える。日本剣道形は所作・意味・教義を体系的に整理し作られたものであり、それらを理解し説明できる人が存在していたからこそ、階層的な記述ができた。一方で、西浦田楽は所作と信仰心はしっかりと継承されているが、その間に存在する意味は、口伝ゆえに抜け落ちたり継承者それぞれの解釈を加えたりしながら継承されており、徐々に変化していっている。 また、メタデータの設計においても、記述した演目の知識構造をもとに、既存のメタデータ語彙で表現できる情報、表現できない情報を整理し検討していった結果、既存語彙では正確に表現できない部分が複数あり、それらを独自に定義したメタデータ語彙で表現すると外部データベースとの連携が難しい、失伝等により年代ごとに情報が変容している等の課題が明らかになった。 このようにデジタルアーカイブの設計手法を当初の計画から変更する必要が出てきたことから、現時点ではおおむね順調に進展しているが、今後本研究課題の計画について一部見直しが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、まず西浦田楽の「教え」の収集については引き続き文献調査や西浦田楽関係者、地域の歴史や祭りに詳しそうな地元の宮司等への聞き取り調査を行い、収集を進めていく。 デジタルアーカイブで用いるVR映像コンテンツについては、2019年度に撮影した動画素材を用いて今後編集を進めていく予定である。しかし、映り込む見学者の肖像権が課題として考えられる。他の映像アーカイブにおける肖像権処理の事例調査を進めながら、対応を検討していく。 演目の知識構造の記述については、「教え」を階層的に記述することは難しいことから、上下の階層的な関係で記述するのではなく、「Aspect(相;ある見知からから見た相)」として「教え」を分類して記述できるか検討していく予定である。 メタデータの設計においては、既存語彙での表現が難しいことから、オントロジーを用いたり、本来民族学や文化人類学で用いられる文化項目分類を用いたりして情報を分類し、既存メタデータ語彙に当てはめてみることを検討していく。また、その結果によっては、知識構造ではなくこれまでに収集した西浦田楽に関する文献の書誌情報をベースとした設計手法の検討を行う。各年代の文献において西浦田楽の演目がどのように記述されているかを、写真やVR映像とともに検索・参照できるデジタルアーカイブとすることで、年代ごとの西浦田楽の姿を表現し、本研究課題における学術的問いである「西浦田楽の継承において骨格をなす情報」を明らかにしていくことを検討している。 メタデータの設計まで完了したのち、RDFを用いたLOD(Linked Open Data)化を試み、デジタルアーカイブの構築を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、撮影機材について当初の予定より構成を見直したことで安価で済んだほか、聞き取り調査や事例調査へ行った回数が当初の予定よりも少なかったためである。撮影機材については当初デジタル一眼レフカメラと魚眼レンズを4セット購入する予定であったが、ミラーレス一眼2台を購入し、250度撮影可能な特殊な魚眼レンズをメーカーからのレンタル品で賄うことで、当初よりも費用を安く抑えることができた。調査の回数については、先方と予定が合わない等の理由により回数が少なくなった。 次年度は調査のための旅費として使用するほか、学術誌への投稿、国際会議での成果発表を中心に、助成金を使用していく予定である。
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Research Products
(1 results)