2019 Fiscal Year Research-status Report
情報社会における監視と信頼に関するオンライン実験研究:創造・毀損・回復過程の解明
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19K20634
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
後藤 晶 明治大学, 情報コミュニケーション学部, 専任講師 (80707886)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 信頼ゲーム / オンライン実験 / クラウドソーシング |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は,「フェーズ1:情報社会における監視主体・監視媒体に対する信頼行動」として,信頼の創造過程を明らかにするために,クラウドソーシングを用いて繰り返しのある信頼ゲームをベースとした基礎実験を実施した.さらに,監視に対する現状把握を目的として,監視媒体と監視主体の組み合わせに着目して,監視の社会的許容度に関するクラウドソーシングユーザおよび学生を対象としたオンライン実験を実施した.いずれの結果からも,「社会信用システム」による監視が許容される,個人による監視は許容されないなどの一貫した結果が得られている.これらの結果について,社会情報学会や情報処理学会等適した学会での報告を行い,ジャーナル投稿への準備を進めている. また,2020年度は「フェーズ2:カタストロフが信頼行動に与える影響」としてテーマを設定し,プレイヤーの意図・行動に関わらない外生的なショックである「カタストロフ」が発生した時の信頼行動の変化を明らかにする.予備実験としての実験室実験を2019年度内に実施できており,比較的順調に研究活動が進んでいる. 一方,2020年度以降についてはコロナウイルス禍の影響により当初予定していた実験室実験が困難になる可能性がある.しかしながら,申請者はクラウドソーシング等で実験参加者を確保し,オンライン実験を実施できる環境を整備している.そのために,実験室実験の代わりにオンライン実験を実施するなど適切な方法を用いて研究を推進していく予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の「フェーズ1:情報社会における監視主体・監視媒体に対する信頼行動」については大きく3つの実験を実施している. 情報の提供に関する監視主体・監視媒体に対する信頼の形成過程を明らかにするために,10期繰り返し信頼ゲームをベースとした実験を,クラウドソーシングを用いて実施した.特にここでは,情報の種類3条件×監視媒体3条件×監視主体3条件の27条件の実験を実施した.1,748名の実験参加者をクラウドソーシングからリクルートし,各条件について最低でも50人を割り付けている.その結果,監視情報の提供率がチャンスレベルである50%を統計的有意に上回っているのは行動情報に関連する項目および社会信用システムに関連する項目が中心であった.しかし,一律に許容されているのではなく,監視情報・監視主体・監視媒体の組み合わせによって許容されるものもあれば,許容されないものも存在している.すなわち,監視主体・監視媒体は単純に信頼される・されないという二項対立的な次元で完結するのではなく,交互作用的に組み合わせによって信頼の程度に差異が生じると考えられる. また,監視に対する社会的許容度の現状を検証するために,監視媒体と監視主体の組み合わせに着目したオンライン実験をクラウドソーシングユーザおよび大学生を対象に実験を行った.主な方法としては,複数の監視媒体および監視対象を設定して,その組み合わせによってどのような監視が望ましいのかを検証した.その結果,最も高い許容度を示しているのは購入履歴の私企業による監視であり,最も低い許容度を示しているのは私人による通信の監視であることが示された.この傾向はクラウドソーシングユーザ対象でも大学生対象でも同じ結果が得られることが確認されており,クラウドソーシングを用いた実験は大学生実験と同程度に信頼できる結果であることが示された.
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は「フェーズ2:カタストロフが信頼行動に与える影響」について解明を試みる.フェーズ2では,カタストロフが利他行動・信頼行動に与える影響,および信頼の破壊過程の解明を目的として,複数の経済ゲーム実験を獲得したポイントが実験参加者の意図によらずに減少するカタストロフゲームとして実施した上で信頼ゲーム他の経済ゲーム実験を行う.これは,形成された信頼が毀損された状況を反映しており,我々の信頼が一度毀損されることでどのように行動が変化するのかを明らかにするための実験である. 監視に対する社会的許容度の現状についても,コロナウイルス禍がどのように影響するのかを検証するために,健康情報や行動履歴など新たな項目も含めて,同一の実験参加者を対象としたパネル調査として実施する上で,その推移を分析する予定である. いずれもクラウドソーシングを用いたオンライン実験および実験室実験を予定しているが,コロナウイルスの影響を鑑みて,実験室実験については状況に応じてクラウドソーシングを用いたオンライン実験として実施することも視野に入れて,柔軟に研究を展開していく予定である. また,昨今の事情を鑑みて,オンライン経済ゲーム実験環境を積極的に公開していくことも研究者としての使命の一つであると考えている.そのために,実験プログラムを公開する,経済ゲーム実験開発のハンズオンセミナーでの報告をするといった方法で積極的に研究環境・研究方法の公開を図っていきたい.
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Causes of Carryover |
2019年度末にかけてコロナウイルスが流行したことにより,報告予定であった学会がオンライン開催となり出張が中止になったり,実験室実験を実施できなくなったことによる. 実験室実験については2020年度中に実験室,ないしは代替のオンライン実験として実施する予定である.
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