2020 Fiscal Year Research-status Report
海外の日本語教育支援の構造モデル作成のための基礎的研究
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19K20968
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
工藤 理恵 フェリス女学院大学, 大学共同利用機関等の部局等, 講師 (10822984)
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Project Period (FY) |
2020-02-01 – 2022-03-31
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Keywords | 日本語教育 / 国際協力 / 日本語教育支援 / 海外の日本語教育 / 教育開発 / 質的研究 / 日本語普及 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は予定していたフィールド調査は断念せざるを得ない状況ではあったが、基礎研究を積極的に進めることにより、海外の日本語教育支援だけでなく、その周辺領域についても文献調査を進め、本研究の前提に立ち返り研究の方針を定められたことが最も大きな成果として挙げられる。調査を進める中で、海外の日本語教育支援は、日本語教育分野だけではなく国際協力・教育開発の分野など、多分野横断的に捉える必要があることが明らかになった。そこで、多分野の文献調査を進めた結果、海外の日本語教育支援を学術的に位置づけることがなされないことにより、包括的な議論が進まないこと、さらにはその営為自体が不可視化されていることが明らかになった。これらをまとめた研究成果は、日本言語政策学会で発表予定である。同発表では、多分野横断的な調査を踏まえ、海外の日本語教育支援の歴史的な文脈を提示する。日本語普及、国際文化交流など他の概念と混然一体に捉えられている海外の日本語教育支援の系譜を整理し、言語政策に関する資料分析の結果も同時に反映させたものである。これにより、海外の日本語教育支援が不可視化された理由を考察し、それを位置づける試みをすることによって、海外の日本語教育支援の位置づけが明らかになり、それにより今後の支援を考える起点となると期待される。 また、フィールド国で予定していた文献収集や翻訳は現地協力者を得て、実施し、またインタビュー調査もオンラインに切り替えて行った。インタビュー調査の一部は論文化され、また、現在もその他協力者のインタビューデータの分析作業を続けている。分析作業は、ソフト購入により格段にスピーディーに、また効果的に行うことができるようになった。今後も、インタビューデータの整理を続け、その成果を公表していきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により、当初予定していたフィールド調査を行うことができなくなったが、一方で予定よりも文献研究が進み、多くの知見を得ることができた。全体的に捉えると、予定通りの方向性ではないが、研究としてはおおむね順調に進展していると言える。 フィールド調査を可能な範囲でオンライン調査に切り替え、インタビューを行った。オンラインに切り替えたことで、インタビューをするのが難しくなったケースもあったが、一方で、インタビュー協力者の幅が広がったという面での成果が大きく、ご協力いただいた方々には大変感謝している。また現地で研究協力者を得て、文献収集と翻訳作業が完了した。現地の研究協力者に何度も史料収集に足を運んでいただいたことで、フィールド調査時に調査者のみでは収集しきれなかった史料を手にいれることができた。これにより、今後フィールド調査が叶えば、より効果的に調査が進められると考えている。現在は多く集まったデータを、質的研究ソフトを用いて整理している段階であるが、その一部を「日本語教育を通じた国際協力―在外大使館員の語りに注目して」(『フェリス女学院大学文学部紀要』56)として論文化している。 最も大きな成果として挙げられるのは、本研究の前提が覆り、それによる進展が見られたことである。本研究は当初、「海外の日本語教育支援」の成功例としてブルガリアを調査してきたが、「海外の日本語教育支援」そのものの学術的位置付け、及び歴史的位置付けが曖昧であり、国際協力の文脈では特に日本語教育の存在そのものが不可視化されていることが明らかになった。現在は、海外の日本語教育支援の系譜を示し、この不可視化された理由を示すことを目的に研究を進めており、この成果は2021年の6月に言語政策学会で口頭発表をする予定である。これら研究成果を踏まえた上で、本研究の「日本語教育支援」の構造モデルについて考えていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、これまで行った基礎研究を踏まえ、今後の推進方策として大きく二つの転換を考えている。 一つ目は、日本語教育分野のみならず、多分野横断的な研究として進めるということである。基礎研究を進めながら、日本語教育支援は日本語教育分野のみならず、言語政策、国際協力や教育開発分野など多分野横断的に捉えなければ、包括的な議論が進まないということが明らかになった。日本語教育支援の文脈で行われている調査でも、支援そのものではなく現場の利となる矮小化された課題に注目が集まる傾向があることもその原因の一つであると考えられる。また、同じ支援に対しても複数の分野で扱われることにより、それぞれが異なる捉え方をしていることも確認された。これらにより、包括的な議論を進めるには、分野を横断した調査が必要であると判断した。 二つ目は、調査対象国を1か国ではなく、その範囲を広げ進めるという点である。当初、本研究はブルガリア1か国を日本語教育支援の成功国という前提で進めてきたが、調査を進めるに従って、支援の結果は多方面から検証されるべきであり、日本語教育支援を包括的に捉えるためには対象国を複数の国とする方が適当であると判断された。限定した国を支援の成功国とし、それをロールモデルとして構造分析を進めることは寧ろ支援を固定的に捉えることに繋がるため、将来的な利が非常に限定的になる可能性が高い。まずは支援の総体そのものをその実態を捉えた上で何が成功なのかを議論する必要があると考えられる。 今後は、これまで行った基礎的な調査を踏まえた上で、前掲の二つの指針に従って、支援の総体をまずは歴史的に、そしてそれを捉えるためより広い範囲での研究を行えるよう、次の研究課題へと本研究を昇華させていく予定である。そういった意味で、本研究は日本語教育支援の基礎研究としてその方向性を定めることに貢献したと言えるだろう。
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Causes of Carryover |
今年度、コロナ禍によりフィールド国への渡航ができない状況が続いた。また、渡航ができるタイミングにおいても、両国での隔離期間などを考慮すると、現地での滞在時間が非常に限定的となり、調査に十分な時間を確保できないため、フィールド調査は行わず、研究の方向性を変更することで対応した。これにより、予定していた旅費はかからなくなり、大きく変更が生じた。一方、研究の方向性が変わることにより、当初計画していなかった文献や質的研究ソフトの購入などの出費が増えた。 次年度は、研究期間と予算を考慮し、本研究課題ではフィールド調査を行わない予定で考えており、現在定めた新たな研究方向性での成果をあげられるよう努めたい。
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Research Products
(2 results)