2018 Fiscal Year Annual Research Report
生命の連続性に迫る―減数分裂の開始・進行の分子機構の解明―
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18H06073
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Azabu University |
Principal Investigator |
前澤 創 麻布大学, 獣医学部, 講師 (90548174)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | エピゲノム / 生殖細胞 / クロマチン / 精子形成 / 減数分裂 / RNA-seq / ATAC-seq / エピジェネティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
生殖細胞は生命の連続性を担う唯一の細胞である。生殖細胞特有の現象である減数分裂は、種の多様性を生み出し、配偶子形成に不可欠なプロセスである。生殖細胞が分化し減数分裂期へ移行する際には、数千もの遺伝子発現が変化し、体細胞型の遺伝子発現プロファイルから生殖細胞特有の遺伝子発現プロファイルへと切り替わる。この変化は、生殖細胞特異的なエピゲノム変化及びクロマチン構造変化によってもたらされるが、詳細な機序は不明である。 本研究では、減数分裂期への移行及び進行に伴うクロマチン構造及びエピゲノム変化を解析し、減数分裂開始機構の解明を目的とした。さらに、生殖細胞の分化制御を担う遺伝子の一部は生物種特異的な進化を遂げており、減数分裂期への移行に生物種特異的な制御が示唆されているため、モデル動物としてマウスに加え、以下の理由からブタを用いた。1)ゲノム情報が利用可能。2)雄性生殖細胞の単離法が確立済み。3)食肉処理場等から比較的容易にサンプルが得られる。4)成果を産業動物の繁殖法に利用可能。マウスとブタの雄性生殖細胞を用いて比較解析を行い、減数分裂期の移行及び進行に伴うクロマチン構造変化の生物種特異性の解明を目指した。 本年度は、マウス及びブタ精巣から減数分裂期前後の生殖細胞を、フローサイトメーターを用いてステージ毎に単離した。それらの細胞からトータルRNAを抽出し、RNA-seqライブラリを調整した。一方、オープンクロマチン構造の変化を解析するために、ステージ毎に単離した細胞を用いてATAC-seqライブラリを調整した。次世代シーケンサーを用いて作製したライブラリの塩基配列情報を取得した。現在、それらのデータ解析を進めている段階である。さらに、核内オープンクロマチン領域を可視化する「ATAC-see法」を用いて、マウス生殖細胞の分化の進行に伴うオープンクロマチン動態を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、第一に、本研究で焦点を当てている減数分裂期前後の分化ステージの生殖細胞の単離に成功した。マウスまたはブタ精巣をコラゲナーゼ及びトリプシンを用いて細胞懸濁液を調整した後、フローサイトメータを用いて、精原細胞、プレレプトテン期精母細胞、レプトテン・ザイゴテン期精母細胞、パキテン期精母細胞の4つのステージに分離し採取した。免疫染色法にて分離した細胞の精製度を評価した。第二に、分離した細胞から全RNAを抽出し、SMART-Seq v4キットを用いてRNA-seqライブラリを作製し、次世代シーケンサーを用いて大規模配列取得を行った。また、分離した細胞を用いて、Omni-ATAC-seq法(Corces et al, 2017, Nat. Method)に従ってATAC-seqライブラリを作製し、次世代シーケンサーを用いて配列取得を行った。現在、分化段階特異的に変化するクロマチン開閉状態と遺伝子発現変化の関連を明らかにするためにデータ解析を進めている。第三に、核内オープンクロマチン領域を可視化するATAC-see法(Chen et al, 2016, Nat Method)に従ってマウス精子形成期の生殖細胞に見られるオープンクロマチン動態を可視化した。その結果、分化段階特異的にオープンクロマチンの局在やクラスタリングなどの挙動が変化することが明らかになった。現在、免疫染色との二重染色や、ブタ精子形成期の生殖細胞を用いるための実験系の最適化を行っている。以上から、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、1年目に得たマウス及びブタ生殖細胞のRNA-seq及びATAC-seqデータを解析する。RNA-seqデータについては、減数分裂期の前後のステージ間比較を行い、発現変動遺伝子を抽出する。ATAC-seqデータについても、同様にステージ間比較を行うことによってクロマチン開閉状態の変化のある領域を同定する。同定した領域のゲノム上の分布(エンハンサーなどの制御領域や、プロモーター領域など)を解析し、転写因子の結合予測解析を行う。本研究で得られたRNA-seq及びATAC-seqデータに加え、既存の転写因子のChIP-seqデータ(A-MYBやRFX2など)と組み合わせて解析することにより、減数分裂期への移行と進行に伴うクロマチン構造変化と遺伝子発現変化への影響を明らかにする。さらに、ブタ-マウス間で、遺伝発現変化及びクロマチン構造変化を比較解析し、エンハンサー領域など制御領域の変化について種間特異性または共通性を明らかにする。第二に、1年目に立ち上げたATAC-see法と免疫染色法を組み合わせることによって、オープンクロマチン動態と転写因子の局在変化を解析する。特にATAC-seqデータを用いた転写因子結合予測解析によって得られた転写因子に焦点を当てて解析する。また、ブタ生殖細胞においても同様の解析を行い、生殖細胞分化におけるオープンクロマチン動態の共通性を明らかにする。
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Research Products
(3 results)