2018 Fiscal Year Annual Research Report
Study on evolution and ecology of a novel pollination syndrome in angiosperm
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18H06075
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
望月 昂 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80822775)
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Project Period (FY) |
2018-08-24 – 2020-03-31
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Keywords | 送粉生態学 / 収斂 / 花のにおい / ガスクロマトグラフィー / 双翅目昆虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、双翅目昆虫の一群であるキノコバエ類を利用する植物に見られる特異な形質が、被子植物においてこれまでにない花の収斂現象:新たな送粉シンドロームであることに着目し、その生態と進化を明らかにすることを目的にしている。具体的には、1)キノコバエ媒の送粉様式と複合的な花形質の進化が同調的かつ繰り返し起きているかどうかの検討、2)その平行進化をもたらす要因として、植物の生活型とハビタットを考慮に入れた系統比較、および、3)キノコバエの誘引に関わる因子の特定を研究の目的としている。 初年度は、研究1)について、ニシキギ属マユミの訪花者の採集を行い、これが主にイエバエ科やクロバエ科の大形の双翅目昆虫に送粉されていることを明らかにした。また、研究2)については予備的な解析の結果、開空度で評価したハビタット情報では、キノコバエ媒・非キノコバエ媒に差はないことが分かった。本結果については、異なる指標を加味した解析をさらに行う予定である。 研究3)について、ニシキギ属植物の花のにおいサンプルを集めると同時に、日本産・中国産アオキ属植物の花のにおい成分の分析およびマンサク科マルバノキの花のにおい分析を行った。アオキがにおいの主成分としてアセトインを持つことは予備的研究から明らかになっていたが、驚くべきことに、遠く離れた科に属するマルバノキもアオキと同様にアセトインを成分として保有することがわかり、におい成分に強い収斂が見られることがわかった。さらに、黄色い花を持つ中国産のアオキ属植物はアセトインを発しておらず、送粉者は明らかでないものの、アオキ属においては花の色とにおいには相関があることが示唆された。栽培条件の個体では送粉者の解明が難しいため、アオキ属における花色―におい―送粉者の関係性を明らかにするためには自生地である中国で調査を行う必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度は申請者の異動で、調査地へのアクセスが悪くなり、開花期を逃してしまう事態が間々発生し、ニシキギ属のコマユミやクロツリバナ、ユリ科タケシマランについてはサンプリングをすることができなかった。現在はそれぞれの種についてアクセスのよい調査地を選定しており、本年度(最終年度)にサンプリングを行い、調査を完了させる予定である。 一方で、その他の種についてのサンプリングはおおむね順調に進んでおり、また、台湾におけるEuonymus laxiflorusの調査に加え、研究テーマに大きな理解を示した共同研究者を得たことで北米の種についても調査する可能性が生じ、ニシキギ属のさらなる理解へと前進している。 また、ニシキギ属植物での比較から、キノコバエ媒の植物は、暗赤色で、花糸の短い花をつけ、アセトインをにおいとして持つという複合的な収斂を示すと示唆されている。この現象がその他の科の植物でも再現されるかどうかは、キノコバエが植物に与える選択圧の強さを推し量る重要な要素である。アオキ属でのにおい分析では、黄色い花と長い花糸を持つAucuba omeiensisでアセトインが検出されなかったことから、アオキ属においてもニシキギ属と全く同じ進化が起きていることが示唆された。この発見は、キノコバエ媒送粉シンドロームの理解を大きく推し進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、主に花のにおい成分に関する調査をおこない、論文を執筆する予定である。また、海外産ニシキギ属植物の送粉様式の調査を通じて、ニシキギ属における暗赤色花の系統的独立比較可能な系統セットを増加させることが目的である。まず、昨年度までの調査で、計4科のキノコバエ媒植物で、アセトインが進化していることが明らかになった。このことは、キノコバエの誘引においてアセトインが重要な役割を果たしていることを示唆している。これを踏まえ、本年度は、野外におけるアセトイントラップの設置とキノコバエを用いた室内バイオアッセイによってアセトインの誘引性をテストする。 また、GC-EADを用いた神経生理学的実験から、キノコバエがアセトインを感受する受容体を持つかどうかについて調査を行う。この実験と合わせ、各種のにおい成分に関するデータを十分に増やし、論文執筆を行う。アセトインは被子植物で花のにおい成分としては稀な物質である。アセトインが遍くキノコバエ媒の送粉様式と関係するかについて調べるため、キノコバエ媒が疑われるビャクブ科ナベワリ属の送粉者とにおい成分の調査を行う。 ニシキギ属を用いたキノコバエ媒の進化に関する研究については、複数の系統で独立に暗赤色花とアセトインを進化させていることが分かっている。本年度は、これまで調査を完了した主とは異なる系統に属する、台湾産Euonyus laxiflorus、および北米産Euonymus atropurpureusの調査を行うことで、ニシキギ属内での花形質および送粉様式の進化パターンについてより深い理解を得る。なお、これらの海外産の種については、共同研究者の王俊能准教授(台湾大学)およびCornell大学のRobert A. Raguso教授の協力を得て調査許可の申請および実際の調査を行うことが決まっている。
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Research Products
(2 results)