2020 Fiscal Year Research-status Report
太陽光照射下での蒸気バブル生成を活用した光触媒―水素生成技術の高効率化
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19K21932
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
名村 今日子 京都大学, 工学研究科, 助教 (20756803)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 水分解 / マイクロバブル / 光熱変換 / 太陽光 / 光触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
光触媒を用いた太陽光―水分解による水素生成効率向上は,水素を利用したクリーンなエネルギー循環創成を実現するための重要な課題である.本研究は,水分解に直接寄与できない波長域の光を,光触媒上での積極的な蒸気バブルの生成と周辺対流制御に利用することで,水素生成効率向上を目指すものである.昨年度ジャイアント水蒸気バブルの連続生成現象を発見したことを踏まえ,今年度はこのバブルの生成条件などの詳しい検証を行った.特に,より定量的な実験を行うため,光の強度や照射条件を系統的に変えやすいレーザー光をソーラーシミュレータの代わりに用いて実験を行った.その結果,単位面積あたりの光の強さが0.5 mW/μm2前後の時に,断続的な水蒸気ジャイアントバブルの生成が見られることがわかった.この水蒸気ジャイアントバブルは崩壊時に強いジェット流を生じ,周囲流体を攪拌できる.これまで利用を考えてきた振動水蒸気バブルの生成は0.8 mW/μm2以上の密度の光が必要であることを考えると,水蒸気ジャイアントバブルはより生成が容易であり,利用しやすいと言える.また,光の照射条件によって,水蒸気ジャイアントバブルの生成頻度や大きさを制御できることがわかった.一方で,バブル周辺の温度を知ることは,バブルや周辺対流を利用する上で重要である.そこで,温度で色が変化する酸化バナジウム薄膜を利用して,光熱変換によって生じるバブル周辺の温度上昇の様子を明らかにした.その結果,バブル表面の一部を約70度以上に加熱した場合に,強いマランゴニ対流が発生することが示唆された.これらの結果はバブルが生む対流や昇温を光触媒反応増強に利用する上で重要な知見である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,昨年度に引き続き,バブルの生成及び対流の発生の原理確認を行なった.また,光触媒反応の増強効果の検証のために,メチレンブルーの分解反応を用いた予備実験を行なった.個々の研究項目の進展状況は,以下にしめすとおり順調であるが,自身の妊娠・出産に伴い,休暇を取得したため,研究期間を2021年度まで延長した.水素生成に対するバブル生成の寄与については,2021年度に検証する予定である.そのため本研究課題は,概ね順調に進展していると評価した. まず,バブルの生成及び対流の発生の原理確認については,予想以上の進展を見せている.昨年度発見した水蒸気ジャイアントバブルの連続生成現象について,レーザー光を用いてさらに詳しく調べることで,想定よりも低い光の照射密度で強いジェット流を断続的に生成できることがわかった.また,液体中の溶質を適切に選ぶことで,液体の脱気を必要としない,実用的なバブル生成条件を達成する糸口を掴んだ.さらに,感温薄膜を用いて,対流生成時のバブル周辺の壁面温度分布を調べることにも成功した.これらの内容は論文および学会発表として報告することができた.一方,光触媒反応の増強効果の検証については,装置の構築と予備的な実験までを終えることができた.メチレンブルーを用いた薄膜の光触媒特性の評価や光触媒薄膜上でのバブル生成についても確認できた.2021年度は,水素生成に対するバブル発生の寄与を明らかにする予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は引き続き,これまでに作製した観察用実験系を用いて,薄膜の水素生成特性に蒸気バブルが与える影響の評価及びバブルを用いた水分解効率向上をめざす.具体的な研究計画は以下の通りである: 今年度明らかにした水蒸気ジャイアントバブルおよびジェット流の断続的な生成を利用した分解効率向上を目指すために,バブル生成条件の最適化や薄膜の設計を行う.水蒸気ジャイアントバブルの生成頻度や大きさ・ジェット流の強さは単位面積あたりの光の強さによって決まる.そこで,光触媒表面近傍の流体攪拌に適した照射条件を明らかにする.また,生成するバブルの個数や密度を最適化する.光触媒光熱変換薄膜については,これまでTiO2ナノコラム/Auナノ粒子薄膜を用いてきた.しかしこの薄膜は,新しく利用を検討する水蒸気ジャイアントバブルおよびジェット流の連続生成によって破壊される可能性があるため,流れに耐えうる薄膜構造や材料の検討を行う予定である. これに並行して,バブルと対流の発生が水の分解効率に与える影響を評価する.特に,今年度明らかにした水蒸気ジャイアントバブルおよびジェット流の断続的な生成を利用した分解効率向上を目指す.薄膜に紫外LEDと可視/近赤外レーザーの同時照射を行うことで,バブル及び対流発生が水素生成効率に与える影響を明らかにする.水の分解効率測定には,ガスクロマトグラフィーを用いる.最終的には光源を太陽光シミュレーターに変更し,太陽光照射下での水素発生効率を評価する.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が発生した理由は,研究者自身の妊娠出産に伴い長期休暇を取得し,研究期間を延長したためである.よって,次年度使用額が発生したが,使用目的は当初計画通りである.
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