2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K22062
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
齋藤 彰 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (90294024)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 構造色 / 乱雑さ / モルフォ蝶 / プロセス / 生物模倣 / ナノ / 光材料 / 透過 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「ナノの乱雑さ制御」に基づく、新たな透過型の光材料開発である。本材料は、入射した光を「高透過で」「広角に広げ」「色づかない」理想的な透過特性をもつ。通常、上の3条件の並立は不可能である。それは光を広角で曲げるにあたり、屈折や回折格子では色分散があり、散乱では透過率が下がるためである。しかし代表者が長らく研究してきたモルフォ蝶の特異な光特性を応用すると、3条件並立は原理的には可能となる。そこで本研究では、代表者がモルフォ型の反射光材料で蓄積してきた「計測技術、電磁場解析による設計、ナノ加工・作製技術」を集約し、上記の新規な透過型光材料の特性を実証する。本材料の実現は、「広角に明るい窓」により室内照明の電力を大幅に削減して省エネを実現するだけでなく、各種照明に用いられる光拡散板に理想的な広角拡散特性をもたせる等、幅広い応用に貢献し得る。2020年度の実績として、大別すると、1.「原理の元になるモルフォ光学特性の謎解明」をもとにした新たな価値・応用の発見、2.1.を援用した採光窓のプロトタイプ改良型(楕円タイプ)の設計、3.プロトタイプ改良型の作製、4.プロトタイプ改良型の光学評価、5.採光窓の原理について厳密な証明(論文投稿とAccept)、6.5.の結果を広義に見た「バイオミメティクスの建築への展開」を検討する国際会議の開催(第2弾)準備、といった内容が挙げられる。上記を受けて、論文出版2件、投稿1件に加え(Accept済みだが出版は2021年度なのでリストからは除外)、実績として書籍1、解説4、口頭発表2(いずれも国際会議)、などの成果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績の概要欄に対応させて記す。まず1.「モルフォ光学特性の謎解明」につづく新たな価値の発見では、原理の根幹をなすモルフォ光学特性について「二次元と三次元の構造互換性」が一般化できる事実を見出した。これにより三次元の複雑な乱雑さと同様の効果を、二次元ナノ構造で出せる可能性が出てきたが、それが反射のみならず透過にも適用できると判った。これを用い、2.採光窓のプロトタイプ改良型を設計した。その結果、二次元構造で作製が可能な新構造について、設計改良(特に楕円形状の導入)を行った。その際、前年度に不都合のあったパラメータについて、作製プロセスへフィードバックして設計の改良に活かした。次に、3.プロトタイプ改良型の作製では、計画通り京大ナノハブ施設を利用し、2.の設計に基づき、鋳型形状をSi基板にフォトリソグラフィとRIEで作製した。その後、ナノインプリントでナノ構造を樹脂に転写し、採光窓を形成した。続いて、4.作製したプロトタイプ改良型を構造・特性の両面で詳細に評価した。その結果については再度、作製プロセスへのフィードバックを行うべく、解析と設計を進行中である。一方、5.「概要」欄で述べた理想的な採光窓の原理について、厳密な証明を完成し、結果は論文化している(Accept済み)。最後に、6.5.の結果を広義に見た「バイオミメティクスの建築への展開」を検討する国際会議の開催(第2弾)について準備を進めている。引き続きコロナ禍が未収束のため、学会の準備は時間がかかっているが、リモートでのノウハウがこの1年で蓄積されており、リモート開催を予定している。上記の結果、概要欄で述べた発表等の成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたり、まず1.作製した採光窓プロトタイプ改良型(二次元化に加えて、新たに楕円形状を導入)の詳細な評価を続ける。評価は、ナノ形状・光学特性の両面から行う。2.その結果を受け、次段の作製にフィードバックする。具体的には、設計値が一部で満たされない特性について(透過のパターンに中央輝点が生じる)、対策を行う。シミュレーションを元にした現段階の考察・検討では、輝点の主因はプロセス中の微細な構造エラーである。この構造エラーを解消するため、プロセス特にステッパーをより短波長の高度な設備にする計画である(それでも解消できない要素は、設計の方で構造エラーを吸収する)。すでに作製→評価→フィードバックは3巡目に入るため、この第二次改良型をもって完成形となる計画である。3.また最終型の設計は、大面積・フィルムという利用形状に適するため、これらの形状へ適用する挑戦を行う。4.この最終形の採光窓(大面積・フィルム)について、さらに詳細な評価を行う。5.さらに本課題を俯瞰する新たな枠組み「バイオミメティクスの建築・都市への展開」について、特に近年の発展が著しい欧州との交流を発展させる。そこで、2019年度に引き続き、本分野での産官学にわたる国際ネットワークを拡充する国際会議を開催する。コロナ禍の世情に鑑みて、リモート開催を積極的に導入する。6.また本課題の採光窓は、拡散照明(ディフューザー)など、窓以外の応用展開が当初予想よりも多岐にわたり、さらに有望であると判ってきた。このため、その方向での調査・展開を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、理由が明確である。内訳は、一つはコロナ禍により複数の国際会議がリモート化、また中止されたことである。当初は年度内にはコロナ鎮静化またワクチン普及により、米国および欧州での国際会議出席を予定していた。しかし、米国(SPIE)、英国(Living Light)、イタリア(CIMTEC/中止)について、会議の出席にかかる旅費・宿泊・参加費などは未使用額となった。他の要因として加工施設(京大ナノハブ)の利用方法がある。やはりコロナの影響で一定期間、ナノハブが閉鎖されたこと、さらに作業者の参加制限が出たことから、当初の予定に比べナノハブでの作業と工程が短縮されたことが挙げられる。一方、当初はプロセス上のナノ加工について、汎用リソグラフィで対処できる範疇はメーカーへの発注前提であった。しかし、ノウハウも蓄積され全工程で京大ナノハブを利用したため、金額は当初予定から減額できた。 以上から、使用計画で大きいのはまず、計画欄の通り、最終年度としての作製の集大成である。ここでプロセスの増加、露光装置の変更がある。京大ナノハブ以外の利用や追加を考えると、必要額はむしろ、当初額に次年度使用額を加えた額が妥当である。また2019年度に続く、国際会議の継続開催(第2回)も計画している。よって本予算は、当初予定通り、計画に変更をきたすことなく、遂行できる計画である。
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Research Products
(9 results)