2020 Fiscal Year Research-status Report
光渦の空間モードカイラリティを活用した時間分解分光の開発
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19K22138
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
戸田 泰則 北海道大学, 工学研究院, 教授 (00313106)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | 光渦 / 時間分解分光 / 光の軌道角運動量 / カイラリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
一般的なレーザー光波の断面位相は一様と見なせる。これに対して断面方位方向に位相勾配をもつ光波は光渦と呼ばれ、位相勾配の向き(カイラリティ)と巻き数に応じた次数を持つ空間モードで記述される。同一巻き数の光渦対は同一の強度分布を持つが、各光渦に異なるカイラリティを与えれば、同軸条件下でもカイラリティ選択による光波分離が可能となる。本研究ではこの光渦カイラリティに着目した新規分光手法の開発を行っている。 昨年度までに主要課題として掲げた光渦カイラリティ選択分離を活用した時間分解分光を実施し、半導体微小共振器モードのカイラリティ選択にもとづく高純度かつ安定な光渦発振を実現した。また直交偏光配置の光渦対を用いたポンププローブ分光を超伝導試料に対して適用し、カイラリティ選択によるキャリアダイナミクス測定に成功した。当該年度はさらに測定感度やモード選択性の向上を目的とした分割型デフォーマブルミラー(DM)を用いた光渦生成とカイラル変調を実現した。 光波整形に広く利用される液晶空間光位相変調器(SLM)とは異なり、分割型DMは静電アクチュエーター上の金属ミラーを利用するため、カイラル変調の高速化と等方的な偏光特性を期待できる。ただし変位ミラーの素子数が限定されるため、特異点を含むような光渦生成は十分に確立されていない。我々は独自開発の軌道角運動量分解分光と特異点解析にもとづき、(i)1次の巻き数をもつ高純度(モード集中度90%以上)の光渦生成、(ii) カイラル変調に対する1%以内のモード安定化を実現した。低次の光渦に限定されるが、一般的なSLMと同程度のモード集中度をもつ光渦生成とSLMをはるかに上回る高速カイラル変調を示すことができたことにより、分光のみならず高速な変調を必要とする光渦応用領域に新たな指針を提示できたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では光波の空間モードカイラリティを活用した分光手法を開発してきた。これまでに(A)半導体微小共振器の幾何学的位相を利用したカイラリティ選択型光渦発振、(B)超伝導試料に対する完全同軸型時間分解分光を実現した。ただし線形過程が支配的となる課題(B)に関しては、試料の複屈折性や表面や構造等を起源とする散乱による測定感度やモード選択性の低下が解決課題であった。この課題を解決するため、変調速度の高速化と等方的な偏光特性を期待できる分割型デフォーマブルミラー(DM)を用いた光渦のカイラル変調を実現した。分割型DMは高速変調と偏光特性に優れるが、変位ミラーの素子数が限定されるため、特異点を含むような光渦生成の報告例は少なく、モード純度やカイラル変調特性については不明であった。我々は独自に開発した軌道角運動量分解分光を用いた定量解析、および特異点解析を用いたカイラル変調特性評価を実施し、高純度(モード集中度90%以上)の光渦生成と高安定なカイラル変調を実現した。今年度はこの分割型DMを用いたカイラル変調を時間分解分光に対して適用し、上記課題を解決すると共に、実際の半導体や超伝導試料を対象とした物性探索を通して本手法の有効性を示していく。以上の進捗状況と展望を踏まえ、本研究は順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに当初の目的であった光渦カイラリティを活用した時間分解分光を実現しており、半導体微小共振器に対する高純度かつ安定なカイラリティ選択型光渦発振に成功した。また線形過程が支配的となる時間分解反射率変化測定では、直交偏光条件下の完全同軸配置におけるカイラリティ選択と過渡応答検出を実現できた。ただし試料の複屈折性や表面や構造等を起源とする散乱による測定感度やモード選択性の低下が課題として残った。課題解決の手段として、昨年度は分割型デフォーマブルミラー(DM)を用いた光渦生成とカイラル変調の最適化を実施し、高純度光渦モード生成と、強度暗点測定にもとづく変調安定性を確認した。今年度はこの分割型DMを用いたカイラリティ変調を上記過渡反射率応答検出に適用し、カイラリティ選択性と測定感度の向上を目指す。分割型DM は高速変調が可能であり、等方的な偏光特性を持つことから分光性能の向上が期待できる。さらに高い反射率をもつ点も微弱な過渡反射率応答検出に対して有利に働く。半導体および超伝導体試料の電子ダイナミクス観測を通して測定感度とモード選択性の向上を図るとともに、同軸入射で実現される空間自由度を利用した物性探索を通して本手法の有効性を示すことを今年度の方策として掲げる。
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Causes of Carryover |
端数として生じた86円は速やかに消耗品購入に充てる。
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Research Products
(3 results)