2019 Fiscal Year Research-status Report
両親が同じでも表現型が異なる合成パンコムギ系統間のエピゲノム解析
Project/Area Number |
19K22309
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
宅見 薫雄 神戸大学, 農学研究科, 教授
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Project Period (FY) |
2019 – 2020
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Keywords | 生殖隔離 / 染色体脱落 / トランスクリプトーム解析 / エピジェネティック修飾 / 合成倍数体 |
Outline of Annual Research Achievements |
異質倍数体の作物では近縁野生種の有用遺伝子を作物育種に効果的に利用するため、種間交雑を介して両親の染色体セットを併せ持つ「合成倍数体」が中間体として利用される。しかし、異質倍数化の過程でゲノムの再編成やクロマチン修飾の再構成が行われることが多々ある。また現在のところ、クロマチン修飾の違いが実際に同一の遺伝子型をもつ合成倍数体系統の表現型の差異を生み出すという明確なデータはない。そこで、マカロニコムギにタルホコムギを交雑して得られた合成6倍体で、同一交雑組み合わせに由来し表現型が異なる系統を材料に、クロマチンのエピジェネティック修飾の違いが転写産物のプロファイルの違いに関係するかを検討するのが本研究の目的である。 今年度は、同一交雑組み合わせに由来するAABBDDゲノムを有する合成パンコムギ2系統Syn6256-16とSyn6256-12を解析に用いた。この後代の圃場での表現型は明確に異なっていた。RNA-seq解析を行ったところ、生育不全が認められたSyn6256-12では4B染色体に大きな欠失が見出された。さらにSyn6256-12の後代には1B染色体上にも欠失が見出された個体がいくつか存在することが明らかになった。すなわち、生育不良を示す系統では染色体上に新規の欠失が生じている可能性が高く、そのような個体の後代ではさらに新たな欠失が生じる可能性が高い。根端をwhole mountで免疫染色して蛍光顕微鏡でヒストン修飾を解析する方法を検討したが、Syn6256-16とSyn6256-12の間で顕著な違いを見出すことはできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、Syn6256-16とSyn6256-12を温室で育てて農業形質の比較を行った。Syn6256が6倍体になった次の自殖世代で葉色が他と明らかに異なる個体Syn6256-12(変異型)が出現した。この個体は全染色体を有しているが粒重が小さかった。また、Syn6226とSyn6256-16も出穂期が微妙に異なった。また、幼苗のRNAシークエンス解析により遺伝子発現プロファイルを両親系統も含めて解析し、Syn6256-16, Syn6256-12間の違いを明らかにした。合成コムギの両親系統から得られたreadも含めてパンコムギ参照配列にマップしてトランスクリプトームの違いを全ゲノムで比較した。この生育不良系統は染色体数42本で正常だが、RNA-seq解析を行うと4B染色体長腕に大きく発現量の低下する場所が集中的に認められた。この領域が欠失しており、さらに系統から分離する個体によって欠失領域の大きさが異なることから、この生育不良系統では4B染色体が不安定化していると考えられた。また、この4B染色体を一部欠失の個体の1つの後代からは、1B染色体の一部も欠失した個体が出現した。すなわち、生育不良を示す系統では染色体上に新規の欠失が生じている可能性が高く、そのような個体の後代ではさらに新たな欠失が生じる可能性が高いと思われる。 根端をwhole mountでCENH3me2, H3K9me2抗体により免疫染色して透明化後、蛍光顕微鏡でヒストン修飾を解析する方法を検討した。しかし、実験自体はうまくいったものの、Syn6256-16とSyn6256-12の間で顕著な違いを見出すことはできなかった。この方法では細胞や染色体単位での観察は可能だが、解像度がさらに要求される場合には、ChIP-seqによってさらに解像度の高い解析を行うことが今後の課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
近縁野生種の遺伝子をコムギ育種に利用する際に用いられる合成異質倍数体では、染色体脱落やクロマチン修飾の変化がしばしば起こり、表現型の不安定性とも関わっている。そこで本研究では、申請者が作出してきた合成6倍体コムギ系統を用いて、染色体の不安定性やクロマチン修飾状態の変動を、由来ゲノムを区別しながら検出して解析することを目的としている。 次年度は今年度に取得したRNA-seqデータの解析をさらに世代を進めて、場合によっては古い世代も含めて解析し、データを丁寧に追加していくことが必要となる。Syn6256と同一交雑組み合わせに由来するSyn6226も追加してRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を進めていく。 次年度はChIP-seqなども行い、合成コムギにおけるクロマチン修飾状態の変化を解析していきたい。それがSyn6256-12後代での染色体の不安定性の原因解明につながることを期待している。
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