2020 Fiscal Year Research-status Report
α-シヌクレインをモデルとした病原性アミロイドのストレイン多様性・細胞毒性の解明
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19K22539
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
田口 謙 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 客員研究員 (20772552)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2022-03-31
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Keywords | α-シヌクレイン / アミロイド / レビー小体 / 細胞毒性 / 凝集体形成 / シヌクレイノパシー |
Outline of Annual Research Achievements |
COVID-19の影響により実験時間や移動が制限されたこともあり、実績としては昨年の報告の内容とあまり変わりはない。病原性アミロイドの構造について汎用的な知見を得るために、αシヌクレイン(aSyn)をモデル蛋白としてaSynアミロイドの構造をin silico解析し、その治験を基に構築した異常型プリオン蛋白の局所構造のモデルの分子動力学(MD)シミュレーションを行った。具体的には、プリオンの増殖に影響する正常多型がアミロイドの構造に与える影響を評価し、各変異の増殖への影響を合理的に説明した。この一連の実験を原稿にまとめ、プレプリント・サーバーであるbioRxivに載せた後に専門誌へ投稿したが、未だ掲載には至っていない。 In vitroの実験については、「現在までの進捗状況」に述べる様に、培養細胞内に発現させた変異aSynの凝集体の細胞毒性の研究を進めており、効率的に細胞毒性が発揮されるためには凝集体の存在以外の因子が必要である可能性がある等の、これまでに報告されていない興味深い現象を認めているが、論文作成の段階には未だ至っていない状況である。 また、この変異体の実用的な利用法として、細胞内でのaSynの凝集体形成または凝集体による細胞毒性発現を阻止する薬物のスクリーニングの系を構築することを試みている。既に凝集体への効果が報告されているオートファジー誘導作用のある試薬を用いて、この系がスクリーニングに有効であることを確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
前回の報告書に記した様に、G84I変異を持つaSyn(以下、aSyn(G84I))は僅か1残基の置換変異体にもかかわらず、培養細胞に発現されると凝集塊を形成し短時間のうちに細胞死を惹起する。本プロジェクトはこの変異体を利用し、凝集体形成による細胞死が直前の細胞の遺伝子発現パターンをマイクロアレイ等により分析することで細胞死の鍵となる分子を同定し、aSynの凝集塊の細胞毒性のメカニズム解明への手掛かりを得ることを目的とする。それに適した実験系が必須であり、現在は再現性良く信頼性の高い系の確立を試みている。一方、これまでの実験を通じて、aSynの凝集体による細胞死の条件が必ずしも単純ではないことが明らかとなってきた。aSyn(G84I)を一過性に大量の蛋白を発現すると明確な凝集体形成と細胞死が見られて野生型との差は歴然だが、安定発現株を作り発現誘導させる様な系では凝集塊のある細胞が相当な時間生き延びるなど、凝集塊による細胞毒性の効率には他の因子が必要である可能性も示唆された。トランスフェクション試薬の種類や細胞の種類によってもaSyn(G84I)凝集塊の細胞毒性は異なる可能性があり、どの様な条件で効率よく細胞毒性が発揮されるかを検証中である。その条件が同定できればパーキンソン病やレビー小体型認知症などのシヌクレイノパシーでの病態の解明の手掛かりとなりうる。 また、aSyn(G84I)の実用的な応用も模索している。現在、aSyn(G84I)の細胞内凝集塊形成やそれによる細胞死を阻止する物質の検索に用いることを試みており、手始めとしてオートファジーを誘導する薬剤の効果を観察しており、それらの有効性を確認している。
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Strategy for Future Research Activity |
aSyn凝集体による細胞毒性のメカニズムの研究については、再現性良く安定して凝集体形成と細胞毒性が観察されるモデルの構築の試みを続ける。信頼性の高いモデルを確立した後に、aSyn凝集体形成により惹起される遺伝子発現の変化のパターンを評価し、aSyn凝集体による細胞毒性に関与している遺伝子群の同定を試みる。その中で、興味深いものに焦点を絞って、過剰発現や機能・発現の阻害の細胞への影響を観察することでaSyn凝集体がどの様に細胞死を惹起するかの手掛かりを得る。 また、シヌクレイノパシーの重要な性質の1つとして、「aSynのアミノ酸配列やアミロイドの構造の違いにより臨床像が異なる」というものがある。例えば、aSynの変異による遺伝型パーキンソン病では変異の種類により主症状や罹病期間が異なり、同じaSyn凝集体でもaSynの変異によって細胞にもたらす影響が異なる可能性がある。遺伝性パーキンソン病の多くは優性遺伝であり、野生型aSynとの共存下での凝集体形成や細胞への影響を考える必要がある。その様な状況を研究するモデルとして、同一細胞内に変異型aSynと野生型aSynが共発現する実験系を確立し、片方の凝集体がもう片方と交差反応するかを観察する。その端緒としてaSyn(G84I)を利用し、条件を最適化した後に種々の変異Synで同様の実験を試みる。 治療に応用可能なaSyn凝集体の形成阻害・凝集体除去・細胞毒性阻止の効果を持つ化合物の検索のためのモデルの確立についても、更に最適な条件を模索していく。現時点では効果が確実なオートファジー誘導試薬を用いているが、系の有効性を確かめた後に様々な化合物を用いて影響を観察していく。
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Causes of Carryover |
実験が予定通りに進まず、遺伝子発現パターンの解析に用いるのに十分に信頼性が高い実験系の確立が遅れているために、マイクロアレイなどは未だ実施しておらず。その分、未使用分が生じた。 実験系が確立したら実行する予定である。
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