2019 Fiscal Year Research-status Report
骨とサンゴのアナロジーに着目したサンゴ礁の早期再生手法の開発
Project/Area Number |
19K22936
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
上田 正人 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (40362660)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 智幸 関西大学, 社会安全学部, 教授 (40261599)
鶴田 浩章 関西大学, 環境都市工学部, 教授 (90253484)
徳重 英信 秋田大学, 理工学研究科, 教授 (80291269)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2021-03-31
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Keywords | 生体材料 / 酸化チタン / 骨形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
§1再生足場となる純チタンの表面修飾: 純チタン棒・板を陽極酸化し,酸化チタン膜を合成した。 §2 水槽中でのサンゴ骨格形成過程の観察:酸化チタンを成膜したチタン棒にサンゴ片を接触させた状態で飼育した。ポリプが酸化チタン表面に拡張する様子を捉えることができた。 §3 水晶振動子マイクロバランス測定法(QCM)による試料とサンゴの相互作用の観察: QCMと光学顕微鏡(OM)を組み合わせた装置を構築した。水晶振動子表面にスパッタリング法で酸化チタンを成膜した基盤に,プラヌラ幼生を播種し,共振周波数(F)と共振抵抗(R)の経時変化を測定した。プラヌラ幼生がセル内を回転しながら遊泳した後,基盤へ密着する様子,ならびに拡張する様子を捉えることができた。Fは周期的な変動を示しながら,全体として減少した。一方,Rは全体として増加した。これらは表面吸着物の質量増加,ならびに液体の粘性増加に対応する。F-R図では,プロットが左上に向かって変化し,単離された細胞が表面に密着する際に観察される傾向と同等であることが確かめられた。QCMは,ミリメートルオーダーのサイズを有するサンゴ軟組織の基盤密着挙動の解析にも利用できることが実験的に示された。なお,受精卵に対しても同様の検討を試みたが,常時プラス浮力が作用しているため,同測定は不可能であった。また,サンゴ片周囲の塩分濃度を緩やかに上昇させると,ポリプを忌避反応により単離できることがわかった。このポリプに対しても,同様のQCM測定を行ったところ,上述した同様の現象を捉えることができた。 §4 海底でのサンゴ再生過程の観察: モルタル基盤にチタン板を接着し,その上にサンゴ片を固定した供試体を和歌山県串本町沿岸(2019.6~),鹿児島県与論島沿岸(2019.12~)に設置した。前者は悪天候により供試体は流されたが,後者は現在経過観察中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画していた§1と§2は予定通りの結果が得られた。§3に関しては,当初,サンゴ片を水晶振動子基盤に接触させることで,ポリプを基盤に伝導させ,それをQCMで捉えようとしていた。しかしながら,受精卵,ならびにプラヌラ幼生を入手でき,よりダイレクトに軟組織の基盤密着を捉えることができた。さらに,サンゴ片からポリプを単離することにも成功した。受精卵やプラヌラを使用した実験は年に1回しか実施できない。単離したポリプを利用できるようになり,通年実験できるようになった。§4に関しては,和歌山県串本町での実地試験において,悪天候により供試体が流されてしまったが,鹿児島県与論島沿岸でも実施試験を開始できたので,その影響は限定的である。以上より,総合的にみて,研究は計画以上に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
§5微弱電流通電:振動柱近傍に発生するカルマン渦と圧電素子を利用し,サンゴの足場に微弱な直流電流を通電する。その通電によるサンゴ骨格の成長過程の変化をUSBカメラ,マイクロフォーカスCTシステムにより観察する。これは研究室内の水槽で行うことを基本とするが,一部は海底にも設置し(§7),水中カメラの顕微鏡モードを利用することで,サンゴ/基盤界面の情報を収集する。 §6プラヌラ・ポリプの接着挙動の観察:水晶振動子マイクロバランス測定法(QCM)と光学顕微鏡を組み合わせたシステムにて,プラヌラやポリプが基盤に密着し,骨格を形成するプロセスを,その場測定・観察する。基盤表面の質量変化に関しては,n数を増やすことで再現性を確かめると共に定量的な評価が行えるかも検討する。さらに,この測定に用いるウェル型セルを微弱通電ができるよう改良する。そして,サンゴ軟組織の接着挙動に及ぼす微弱通電の影響をQCMで捉えることに挑戦する。 §7海底でのサンゴ再生過程の観察(継続):和歌山県串本町と鹿児島県与論島における実地試験を継続して行う。和歌山県串本町においては,試験フィールドを再検討すると共に,悪天候下でも試験が継続できるよう,供試体の固定方法を再検討する。 §8総括:骨とサンゴのアナロジーを体系化すると共に,サンゴ骨格再生における問題点と課題を抽出する。さらに,サンゴ礁の早期再生の革新的な手段と方向性を提案する。
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Causes of Carryover |
所有装置を一部流用し,計画していた備品費用を抑えることができたため。また,その装置に必要な部品が学内で加工できたことも影響している。QCMを利用した研究が想定より順調に進んでいるため,その消耗品費に充当する。
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Research Products
(6 results)