2020 Fiscal Year Annual Research Report
民衆の音楽文化におけるゲーテの詩の受容―絵解き師「ベンケルゼンガ―」の役割
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19K23085
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
横山 淳子 日本大学, 文理学部, 助教 (20648290)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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Keywords | ゲーテ / ベンケルザング / ベンケルゼンガ― |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ゲーテの作品が「ベンケルザング」として歌われて民衆の歌文化に取り入れられる過程を考察し、ゲーテと民衆の橋渡しとなったベンケルゼンガーの役割について追究した。1年目は、既に報告の通り詩『彩られたリボンを添えて』、2年目は小説『若きウェルテルの悩み』を考察対象とした。 『ウェルテル』を題材としたベンケルザングについては、大きく2つの特徴が指摘できた。1つ目は、強い宗教的性格を持ち、「自殺」を「罪」と捉え、自殺への戒めを語っている点。そして、ウェルテルを知的内面に悩む若者ではなく、単純に恋を追い求める若者として滑稽に描いている点である。 ゲーテの小説は、時代の転換期に新しい考え方や生き方を提示し、様々な議論を呼んだが、ベンケルザングは、個々の苦悩や時代の重い空気を吹き飛ばしつつ、人間の純粋な心を民衆に提示している。その後、この小説は民謡としても歌われ、「死への憧れ」や「勝利としての死」など、新しい考え方と共に歌われるようになった。 『ウェルテル』のベンケルザングは、3月革命の翌年、風刺歌集Musenklaenge aus Deutschlands Leierkastenにも採録されており、この歌集との関わりも考察した。政治的混乱が続いた3月革命期において、宗教的・道徳的性格を備えつつ、ユーモアを交えて、人間の心を描いたベンケルザングは、民衆の心や時代の混乱を映し出し、歴史を動かす原動力にもなっていた。 本研究により、ゲーテの作品を民衆に分かりやすく、求められている形で伝えることで、近代化に向かう時代に民衆の新たな意識形成に寄与していたベンケルゼンガーの役割を明らかにすることができた。ベンケルザングを通じて新しい考え方や表現に触れた民衆は、それを自分たちの歌文化にも取り入れ、民謡として歌い発展させていたことから、ベンケルゼンガーとドイツの歌文化の発展の関わりも明らかにできた。
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Research Products
(2 results)