2021 Fiscal Year Research-status Report
The relationship between central and local authorities of the Kingdom of Hungary concerning "Gypsy" policy in the second half of the 18th century
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19K23107
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
市原 晋平 神戸大学, 人文学研究科, 助教 (50842423)
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Project Period (FY) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 近世史 / 18世紀 / ハンガリー / ロマ/「ジプシー」 / 中央・地方関係 / マイノリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中央集権改革が進む18世紀のハンガリー王国全土において展開された「周囲からツィガーニと呼ばれた人々」(以下「ツィガーニ」)の統制や法的・社会的「同化」を目指す諸政策の遂行実態の検討を通じて、従来対立が強調されがちな当該期中央・地方関係を、協働や調整の側面をも踏まえて再構成することを目的としている。なお、「ツィガーニ」は「ジプシー」に相当するハンガリー語で、ロマ民族への蔑称とされる傾向もあるが、史料中での「ツィガーニ」という歴史的概念はロマ以外をも包含しうるため、本研究では18世紀に限りこの表現を用いている。 2021年度には『海港都市研究』第17号(2022年3月) 掲載の論文が具体的成果として得られた。当該論文「18 世紀前半のハンガリー王国における「ツィガーニ」鍛冶師と地域社会 ――ミシュコルツにおける活動制限条例(1740 年)の歴史的背景――」は、「反ジプシー主義」の長期的な歴史の一コマと位置付けられる傾向の強い「ツィガーニ」に対する制限的規制について、そこで問題化された「ツィガーニ」とこの人々を取り巻く社会との関係性も含めた、その地域的・時代的背景の解明を試みたものである。具体的には、1740年にハンガリー王国ボルショド県の都市ミシュコルツで制定された「ツィガーニ」鍛冶師によるブーツへの金具打ち付けを制限する条例を取り上げ、その制定の背景には、対オスマン戦争等の被害からの復興期にあった同都市における金属加工業務の需給バランスの不均衡という歴史的文脈と、営業特権を有する同職組合とその外部で営業を行う「ツィガーニ」鍛冶師ら「素人業者」との間の軋轢が存在したことを指摘した。なお、同論文は本課題採択以前に行った研究報告および博士論文の一部も土台としているが、本課題遂行過程で入手できた史料・文献により、従来の論旨の修正やより精緻な検証が可能となったものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウィルス流行の影響により、2021年度に予定していた国内外における調査を実施できず、本課題を遂行するための基礎となる史料の入手が進んでいないため。 他方で、本課題採択以降に入手できた資料も用いて、18世紀前半のハンガリー王国地方都市において制定された「ツィガーニ」への制限や排除を規定した条例の背景を、地域社会の状況のみならず、より広範な17世紀末から18世紀前半にかけてのハンガリー王国の状況の推移も視野に入れつつ検討した論文を刊行し、中央主導の「ツィガーニ政策」の展開が本格化する以前の時期における地域レベルの行政や社会の「ツィガーニ」をめぐる動向の一端を解明できたことから、研究には一定程度の進展が見られたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、渡航が可能となり次第、昨年度中に予定していた史料調査をハンガリー国立文書館にて遂行する。同館収蔵史料の中でも、各地の「ツィガーニ」の状況に関して1770年代以降に王国中央行政府ハンガリー総督府に提出されていた県など、地方当局の報告書及びその他の書簡を含む『総督府ツィガーニ局文書群』の未入手分に加え、1770年代以前の関連文書が納められていると期待できる『総督府混合文書群』の調査が中心となる。なお、『ツィガーニ局文書群』所蔵史料については、未入手分の文書も含め、収録文書の性格やその送信元及び受信元についてリスト化を昨年度完了させており、その情報をもとにしつつ、今後対象とする地域を、史料状況も踏まえてより限定していく必要があるとも感じている。例えばペシュト県、ポジョニ県などの大都市を有し、記録された「ツィガーニ」の数も比較的多い県や、王国の南東部や西部の境界地域にあたる諸県などがその候補として想定される。 渡航がかなわなかった場合は、電子データ化された当該史料群のコピーをハンガリー国立文書館に発注する予定である。ただし、文書館側から提示されている見積額が、現予算をはるかに上回っており、数週間現地に滞在して史料の写真撮影を行った場合の方がより安価に、より多くの史料を入手できると期待できるため、渡航を第一の手段として想定している。 最終年度である2022年度末までに、それまで入手出来た総督府と地方当局の間で交わされた「ツィガーニ」関連文書の内容を整理・解読し、総督府と諸地域の間のコミュニケーションを通じて展開した「ツィガーニ政策」の遂行実態について明らかにできた成果を、研究者集会での報告、論文等の形で発表することを目指す。
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Causes of Carryover |
・次年度使用額が生じた理由:新型コロナウィルス流行に伴う国外渡航制限により、2021年度に予定していた現地調査費及び渡航滞在費として計上していた予算が未使用で残ったため。 ・使用計画:渡航が可能となり次第、ハンガリーへの渡航滞在費、文書館、図書館などでの資料入手費用として大部分を使用する予定である。 上述の通り、ハンガリー国立文書館から提示された調査予定史料全体の電子データ化に必要な金額は、現状の予算残高より高額であり、また、現地渡航調査にて史料の撮影などを行う場合の費用の方がより安価に目的を完了できる見通しであるため、可能な限り、本年度中の現地調査を通じた史料の入手を残予算の主な使い道として想定している。
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Research Products
(1 results)